惨めになるだけ


「何が…嫌なんだい……鋼の」

ピタッと涙が止まる。
いつもの声が何故か聞こえてきた。
嘘だと思った、だって…ロイは女性の元から
司令部に向かったはずで……。
でないと、仕事の時間に間に合うはずがない。
エドワードはロイのぐしゃぐしゃに皺のよったコートを
顔から離すことができないでいた。

ゆっくりと近づいてくる足音が聞こえる。
心臓は今にも爆発しそうなぐらい
早く鼓動を打ち、その場で固まっている。
動けない、でも動かないと…すぐ傍に

「顔を上げなさい…鋼の」

嫌だ。
誰が顔を上げるものか……。
こんな惨めな姿。
誰の前だって、涙を堪えて歯を食いしばって生きてきたのに
今更…しかもロイの前でなんか……。

「……今日は視察でね、どうしてもそのコートが必要なんだが」

ロイは小さく溜息をついて、エドワードの持つコートに手を伸ばし
ぐっと引っ張り離す。
エドワードは慌てて顔を横に向けて、ロイには見せないように

いつだって、我慢できたんだ。
女性が呼び出したって
その女性と一緒に居るトコロを見たって
ロイの目の前では、涙を流さないでいれたのに

「視察なんだろ…さっさと行けよ」

視線を逸らし、俯いたまま
エドワードは、小さく呟く…。
コート、皺くちゃにしてしまったな……
コレで、また女性の元でアイロンでもかけてくるんだろうか
ロイが傍にいるのに、考える事は嫌な事ばかり。
さっさと出て行けばいいのに、もう一度独りにして…。
俺を泣かせてくれ…独りで泣きたい。

なのに、ロイは一向に出て行く様子がない。
どういう事だ?
視察なんじゃないのか?

「顔を…上げなさいと言っているんだが」
「んだよ、さっさと行けって……」

じっと見つめられるのは耐えられない。
なのに、ロイは視線をこちらに向けたまま動いてはくれない。
やめろよ……そんなに見られても惨めになるだけ

「上げて、こちらを向きなさい」

やめろって

「鋼の……」

やめろ

「…エドワード」

こんな惨めな姿

「見るなッ!」
大声を上げて、ロイの肩を思いっきり押し
慌てて立ち上がり、傍を離れた。
離れて距離をとるけれど、やっぱり顔は上げれなくて
今、ロイがどんな表情をしているかなんて分からない。
ただ、こんな姿を見られたくなくて…。

例え、大勢の中の一人だとしても
こんな姿を見られて、同情されるのが嫌で

普段逢えないからこそ、こんな姿
見られる事が嫌で…嫌で

「見るなよ…こんな……」

見られれば見られるほど
見つめられれば見つめられるほど

俺は、どんどん惨めになっていく。