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見つめるのは背中と横顔


エドワードの最近の日課はロイの家で独りで待つ事。
いつも見るのは、女性の元へと去っていくアイツの背中。
最初は凄く嫌だったのに、どうしてだろう。
「慣れって怖いな……」
ロイのコートをギュッと掴んだまま、エドワードは
ソファーに寝転んだ状態で天井を見上げた。

いつもアイツは、前に進んでる。
そして、俺はいつも前ばかり見てるんだ。
見たって、進まなければ何も変わりはしないのに
ただただ、前を見つめて
見つめた先には、必ずと言っていいほど
アイツの背中がある。

背中ばかり見つめてると、どうにかなりそうだ。
意味もなく、小さく溜息を吐いたエドワードは
ロイのコートをそっと自分の膝にかけた。
「数えるほどしかないのか……」
よくよく考えてみれば、見ているのは背中ばかり
そして、背中と違うと言えば横顔ばかり。
正面から見ることは数えるほどしかない。
ただ、あの黒い瞳にじっと見られたくない
それだけなのかもしれないが…
正面から見られると、つい視線を逸らす。
ロイが前を見ている時に、そっと横顔だけ見つめる。
それで、ロイが気付きこちらに顔を向けると
やはりエドワードは逸らしてしまうのだ。

身体全身も、顔も、正面から見ることは少ない。

「馬鹿みたいだ……」

あの時、呟いた言葉と同じ言葉をそっと呟く。
けれど、あの時のように返ってくる返事は
今はない……。
時計の秒針の音だけが静かに響き、自分の呼吸する音だけが
この空間を支配した。

しばらくして、自分のコートを頭に敷き、枕にする。
もう夕方なんて時間はとっくに過ぎた。
あえて言うなら、深夜だ。
夜さえ通り越して、深夜……書物や文献を読んでいれば
別に眠気など襲ってはこないのだが
ただコートを手にとって、色々考えているだけ
人間というのは、どうやら眠気には勝てないのだと
エドワードは小さく笑いながら、膝にかけていたロイのコートを
そっと自分の肩まで持ってきて毛布代わり。

「おやすみ……」

誰も居ないけれど、小さく声を出した。
ロイの家のリビングで、ロイのコートを毛布に寝る…。
そして想うのは、今ロイは何をしているだろうかとか
やっぱり、女性の家で泊まってきてしまうのだろうなとか

なんて女々しい……。
そう思いながら静かに目を瞑り、眠りに就き始めた。


見つめ続けるのは、正面じゃなくていい。
背中と少しだけ横顔が見れればそれでいい…。
そんな贅沢言わないから

ただ旅の途中、ここに寄った時だけは
傍にいてほしいなんて……。



あぁ……これこそ、贅沢だよな。