諦めたらだめ


キスマークを付けたら大丈夫だろう、そんな甘い考えがいけなかった。
逆に悪化したのだ……。
こればかりは、どうしたらいいのかエドワードは頭を悩ませた。

女性と共に居る率が高くなっていたのだ
普通、キスマークを見たら怒り出すとか
あぁ、他に彼女がいるのね……さようなら。
というのが定番ではないだろうか。

何故、増える……。

もう少し考え直した方がいいのではないか、アイツに群がる女性よ。
その男は、絶対付き合わないんだぞ。
付き合うのは遊びだけで、軍事的に情報聞き出してポイッなんだぞ。
確かに大佐という立場でお金も名誉も、何か色々特典は付いてくるが
決して、人としてイイ奴じゃないんだからな。

「イイ奴ではないなら、諦めればいいだろう?鋼の」

聞こえないように呟いた言葉は、目の前を通った問題の本人に
さらりと聞こえてしまったらしい。
しまったという顔をしたが、既に手遅れであった。
どうしよう、と冷や汗をかきながらエドワードは
視線を床とロイの顔をいったりきたりした。
その様子を見て笑い出すロイは、手に持っていた書類をエドワードの頭に置いた。
落ちそうになるのを慌てて押さえたエドワードは
何をするんだと言葉を放とうとしたが、ロイの言葉にかき消される。
「で、諦めるのかい?」
「ばっ、か言うなよ……誰が諦めるか」
鼻息荒く意気込んだエドワードに、ロイは微笑みと
一言を残してその場を去った。


「なら、頑張りたまえ」


その一言に、エドワードは口が開いたまま固まった。
ロイは一体どうしたのだろうか……。
この数日、エドワードは勝手に行動していて
もちろん、ホークアイに迷惑をかけるのを承知で
ハボックにさりげなく応援を貰いながらも
結局は、ロイから“いい加減にしなさい”の一言だけを与えてもらっている状態で
いつもいつも旅の報告に寄った司令部付近で、女性と一緒の所を見かけたから
嫌がらせのごとく、否本当に嫌がらせの為にキスマークを付けたのだ。
実際、数名の女性から右手が飛んできたらしいとか
噂話を聞いて、よくやった俺と思いつつも
左頬は大丈夫なのだろうかと少しだけ悩みもした。

本来ならば、ロイは諦めろと言うのが正しいのではないだろうか?

開けた口をようやく閉じて、エドワードは唸りながらその場で悩んでいた。
そこで、ふと頭に乗せられた書類を思い出して頭からおろしてみる。
ずっと頭の上で押さえていたので、少し皺が寄ってしまっていたが……。

その書類の内容を見て、ただの仕事かと溜息を吐いたエドワードは
最後の走り書きの文章を見て、慌てて走り出した。

“明らかに極めたのか?”

急いで書いたのだろうか、最後の2、3文字が
文字になっているようでなっていなかった。
いつもの部屋の扉をノックもせずに開き
机に肘をついていたロイに向かって、言葉を投げかけた。

「諦めるか、ばーか!!」

一瞬だけ驚いたロイは、書類の最後を見たのかと小さな声で呟き
走ってきて息も絶え絶えになっているエドワードを見て
小さく微笑んだのだった。