がんばろう
「で、大将は何してんだ……」 思わずタバコが床に落ちそうになるほど 目の前の光景に唖然とした。 今ここで、タバコを落としてしまえば 目の前のエドワードに笑われる、そればかりかロイが発火布をつけそうだ。 挙句、東方司令部での影のドンと言われるホークアイからの発砲は免れない。 分かっている、分かっているのだが……。 この光景を見て、平然としていられる奴が果たしてこの軍部内に居るだろうか? 「何って……見ての通りで」 ハボックの言葉に、さらりと言葉を返したエドワードは ロイの膝の上に座り、首元に顔を埋めていた。 タバコを床に落としそうになった原因は、この体勢にあるのだが……。 何事もないかのように、またロイの首元に顔を埋め始め ハボックは目のやり場に困った。 「大佐が、そんな趣味だとは初耳です」 「馬鹿言うな、これは鋼のが勝手にやって…コラ、くすぐったいぞ」 犯罪……ぼそり呟いたハボックの言葉に勢いよく反応したロイは 自分の首元に顔を埋めたエドワードの頬をぐいっと押して 否定の言葉を必死に紡いでいる。 ぐいっと押されたエドワードは、否定するロイを無視して 全力で元の体勢に戻ろうとしている。 「いーやーだ、もっとやる」 「何が、もっとやるんだ鋼のいい加減に……」 ロイは必死にエドワードの体を押すが、エドワードは襟元をぐっと掴み離さない。 その様子を見ているハボックは、何をどうしたらいいのか分からぬまま その場で突っ立っていた。 かろうじて、タバコは机の上に置いてあった灰皿に押しつけたのだけれど。 「鋼の!!」 それから数分間、押し合いな格闘が続き、ハボックが口を挟む前に ロイの大声でストップした……終結である。 その終結までの間の、ある意味戦場を目の前で見ていたハボックは 呆れ顔をしながら、エドワードの赤コートをぐいっと掴みあげた。 「大佐…これ、貸しですからね」 「う……仕方あるまい、さっさと行けさっさと!」 ロイはハボックに手を振り、さっさと連れて出て行けと追い出した。 扉が閉まる音がして、ようやく部屋に静かな空気が流れる。 ほっと一息吐いたロイは、書類を机の隅に置き ぐったりと椅子に深く座った。 部屋を出て、ハボックに引きずられるエドワードは 何度も離せと叫んでいたが、また行く気だろうと言われて離してもらえなかった。 ずるずる引きずられるエドワードを見かけた司令部の皆は クスクス笑ってはいるが、結局は助けてくれない。 「で、何してたんだ大将」 「キスマーク」 離せと言っても離さないハボックに諦めたのか、大人しく引きずられるエドワードは 何をしていたのかと聞かれて、そう一言答えた。 何を言い出すかとビックリしたハボックは、思わず掴んでいたコートを 離してしまいそうになったが、掴んでいなかったもう片方の手で 改めてエドワードの手首を掴み、逃がす事にはならずにすんだ。 「だって、いつも女の人と会ってるだろ?」 だから、キスマーク付けたら大丈夫かなって……。 大きな金色の瞳をくるくるっとさせて見上げてくるエドワードは 無邪気そうに言葉を放つ。 その言葉を聞いたハボックは、小さく息を吐きながら パッと掴んでいたコートと手首を離し、エドワードの肩をガシッと掴んだ。 「頑張れ、大将!!」 「おぅ!!」 ロイの居る部屋に向かって走り去るエドワードを見て 笑うしかないハボックは、胸元からタバコを取り出し火を点けた。 |