俺には貴方しかいないのに


ロイの家に辿り着いて、勝手に部屋に入る。
来るのかと本人が言ったのだから、入っても良いだろう。

「相変わらず…生活感ねーな……」
周りを見渡しても、この部屋のどこに
生活感があるのかが分からない。
綺麗というよりは、使っていないだけのように見える家具。
おそらく冷蔵庫の中は、空っぽなのだろう
そう思って、冷蔵庫を覗き込めば
見事にお酒しか入っていない現実。
そこでまた気付く……。
アイツは、料理をしないから食材が入っていないわけじゃない。
女性と……外食する事が多いからだ。

「冷蔵庫の前で、何をしている…エド……」
いきなり声をかけられ、慌てて振り向く。
すると、ロイが帰宅し、コートをソファーにかけているのが見えた。
「何って…別に、酒しか入ってないなと思っただけ」
ロイを見て、エドワードはその場でコートを脱ぎ
そっとロイに近づく……。
あぁ…この顔は疲れてる顔だ……。
「あのさ……」
声をかけたと同時に、電話が鳴った。
ロイは溜息を吐いて、電話に出る。
どうやら…相手は女性、すると急な仕事というわけではない。
急ではないはずなのに、エドワードはなんとなく分かってしまった。

あぁ…出かけるだろうな。

「すまない…」
その一言が、エドワードを地獄へ落とす。
『イヤだ』の一言が言えたらどれだけ気が楽だろうか……。
言えば、留まってくれるのか
イヤ、留まる事はないだろう。

だって、大人は大勢の人に、愛してると囁ける。
子供の俺に、大人の本当の気持ちなんて
分かるはずがない……言葉にしてもらわなければ
分かるはずがないのだ。


バタンと閉じられた重い扉。
コートはソファーにかけたまま、ロイはさっさと出かけてしまった。

手に持っていたコートを、そっとソファーにかけ
かわりに、ロイのコートを手にとった。
皺になってもかまわず、ぎゅっと掴み離さない。

ロイが、女性の所に行ってしまうのは
ちゃんと好きだと言葉にしていないからだろうか?
ロイは、愛していると言ってくれるのに
俺は、愛していると、好きだと返さないからだろうか
だって、信じられない。
沢山の人に、囁いてるその言葉を
どうやって信じたらいい?
唯一、信じれるのは名前を呼ばれる時だけ。
その名前だけは、俺のモノだから……。
「好きだと言えば……」
アイツは戻ってきてくれるのかな…。

まだ、一言も言えていない愛の言葉
恥ずかしいから言えないのではなくて
ただ……信じれないだけ…

信じる勇気がないだけなんだ。
ソファーに寝転び、ロイのコートを頭からかぶる。
視界は真っ暗闇。
その中で、エドワードは小さな声で呟いた。


「俺にはあんたしかいないのに…」

残酷だ。
俺にはあんたしかいないのに……
あんたには……沢山いるんだな。