その傷はどういう意味


傷は必ずしも体に受けるものじゃない。
心に受ける傷だって傷と言う。

人生の汚点部分だって、傷と言う。

俺の傷は、母を作ろうとした事だ。
アイツは、そんな俺の後見人になった事…傷と思うのだろうか



カタカタと音が鳴る。
何の音かと見れば、銃をロイに向けている見知らぬ男からの音。
銃を持つ手が震えている。
何故銃口を向けられたロイが、余裕な顔をしているかは
その様子を見て、すぐに分かった。

男は、ホークアイとハボックの2人に銃口を向けられている。
きっとロイが許可を出さなければ、発砲しないだろう。
しかし男にはそれが分からない。
いつ撃たれるかもしれない状況に立たされて
肝心のロイに向けた銃はカタカタと震えていて
確実にロイを殺せるという照準が定まっていない。

「き、貴様さえ居なければ…俺は……」
「嫉妬は醜い、さっさと銃をしまいたまえ…今なら」

ロイは溜め息を吐きながら、一歩一歩、男へと近づく。
話の内容からして、女を取られたとかそういう事だろう。
今なら、その言葉の後に続く言葉は決まっている。
ロイなら必ず『許してやろう』と言う…。
大総統を目指す奴にしては、甘すぎる判断だ。

「大佐…私怨を職場に持ち込ませないで下さい」
男に近づくロイに対して、ホークアイは銃のセーフティーを
外しながら、冷静に言葉を放った。
「まーた女絡みっすか……勘弁して下さいよ大佐」
それに乗せるように、ハボックもセーフティーを外し
男がロイに何かをする前に、射撃準備は完璧にする。

「鋼の…ちょっとこちらに来たまえ」
「は?」

そんな中、ロイは男の前で
未だに余裕な顔をしてエドワードを呼んだ。
当たり前だが、銃はロイに向けられたまま。
そこに来いというのは、どういう意味なのか…
まぁ、男も震えたまま動く様子もないようだし
仕方なく、ロイの前まで歩き出す。

「ったく、何だよ…こんな状況で……」
誰が見ても、状況からこんなに冷静でいられるわけが
「ほら、人質ならこの子に…」
「は?え…どう……」
エドワードはロイにトンッと男の方に押され
気付いたら、男の腕の中……。
ロイに向けられていた銃口は、見事にエドワードの頭へと
照準を変えて、男は人質をとった事で優位に立ったと思ったのか
銃を持つ手の震えは、消えていた。

まずい、非常にまずい……。
まさかこんな手を使われるとは思っていなかった。
目の前で、こんなことをしてくれた本人はニヤニヤ笑っている。
「どういうつもりだ…」
男も不思議がっている…のは当たり前だろう。
自分が不利になるような、人質を与えるという行為。
しかしその行為をまるで、楽しんでいるかのように
フッと笑みを浮かべ、エドワードにハッキリと聞こえるように
「それだけ小さければ、移動に不便はないだろう?」
そう言い切ったのだ。

「だ…れが……豆粒みたいに小さいかぁーーー!!」

ある単語に毎度のごとく反応したエドワードは
男が銃を向けている事などすっかり忘れ
両手をパンッと合せ、機械鎧を武器へと変化させた。
それと同時に、ホークアイとハボックが男に向け銃を撃つ。
ホークアイの撃った銃弾は、エドワードに向けられていた
銃を遠くへ跳ね飛ばし…。
ハボックが撃った銃弾は、エドワードを拘束していた
男の腕を、あてずに軽く掠める形に。
話を聞かなければならない相手なので
きっと、極力傷つけないようにという配慮なのだろう。
男は銃を跳ばされ、腕を傷つけられ、更にエドワードが
ロイの方に進もうとする勢いが加わり、後ろに倒れこんだ。
エドワードは、練成した武器でロイの顔を狙う。
ロイは小さく笑いながら避けたが、スッと頬に掻き傷が出来てしまった。

「え…」

いつもの通りからかって、いつもの通りこの攻撃も
しっかり避けると思っていたエドワードは
ロイの頬に傷が出来た事に、驚きを隠せなかった。