泣いてないよ


30分経過するまで、何をすればいいんだろうか。
いや……本当に、30分で終わらせてくるのだろうか?
問題点は沢山あるが、疑うのはよくないと言われ
エドワードの横でホークアイは微笑んでいるし
腕の中の仔猫は幸せそうに鳴いている。
「そういえば、その仔猫……どうするの?」
仔猫の鳴き声に、ピクンッと反応したホークアイは
エドワードの腕の中を覗き込み、仔猫をそっと撫でた。

いつもは弟が連れてきて、お腹の中に隠していた。
鳴き声がする度に怒るものだったが
今回は、エドワードが拾ってきたのだ。
飼う資格がないのに拾ってくるのはダメだと散々弟に言ったのに……。
だが、あの場面を見て放っておく事の方がもっとダメなのだろう

放っておくのもダメ、しかし飼えないのだから拾ってしまうのもダメ
現実は、そう甘くはないという事だろうか……。
「どうすっかなぁ……」
ブラックハヤテ号が居る以上、ここで飼ってもらう事は無理だろう。
他の軍部の人とも考えたが、緊急事態が起きれば
司令部に泊り込みになり猫の世話どころではなくなってしまう。
もちろん、旅をしているエドワードやアルフォンスには無理。

どうしようかと悩んでいるエドワードを見て
ホークアイは小さく笑った。
「今回は、逆みたいね」
何が逆なのかと一瞬考えたが、すぐに思いついた。
いつもはアルフォンスが猫を拾って、どうしようと悩んでいる。
飼えないという文字は一切変わらない為
飼い主を探すか、旅の出発までに見つからなければ
捨て置かねばならない……。
だが、今回はエドワードが猫を拾って悩んでいる。

ダメだと言いながら拾ってきている時点で
どんな理由があろうと、人の事が言える状態ではない。

飼い主を見つけに行かなくてはならないが
この場を移動してしまっては、ロイが可哀想かなとか
かといって、このままにしておくことはできないとか
色々悩むけれど、悩んでいるだけでは解決は何一つできない。
あと少しで30分という時間が経つ中で
廊下から、カシャン、カシャン、と音が聞こえてきた。
いつも聞いている音、アルフォンスの足音だ。
コンコンと扉がノックされ、エドワードは慌てた。
腕に抱えている仔猫をどうしようとウロウロしている。
その様子を見て、クスクス笑いながらホークアイは
どうぞと扉の外の相手に声をかけた。


「まったく、大佐に聞いたよ兄さん」
仔猫の事も言いたいけど、川に飛び込んだんだって?
扉が開くと同時に、マシンガンのごとく放たれた言葉に
エドワードは目をパチくりさせて、じっとアルフォンスを見た。
「どうやら鋼のは、濡れるのが好きなようでな……」
アルフォンスの後ろからも声が聞こえてきた。
30分待っていろと言って去って、本当に時間内に戻ってきた奴だ。

「あーもう、飼い主見つけなきゃなんねーし
 大佐は鬱陶しいし、いい事ねーよマジで」

誰が濡れるのが好きかと怒鳴る前に、色々なモノが爆発した。
ブツブツ言い、エドワードは髪をくしゃくしゃしながら
腕の中の仔猫を見た。
「鬱陶しいとは酷いものだ……猫なら、私の家で飼えばいいだろう」
「……は?」
腕の中の仔猫の頭を撫でに、覗き込んできたロイは
さらりと言葉を投げかけて、何事もないような顔をしてエドワードを見た。
エドワードは思考がイマイチ追いついていない。
思考が追いついた時には、ロイは自席に戻っていて
腕の中の仔猫はにゃぁと小さく鳴いていた。
アルフォンスは、よかったねと微笑んでいて
ホークアイは、エドワードにそっとハンカチを渡してくれた。
「よかったわ、置き去りにしなくてすみそうね」
ホークアイの出したハンカチを見て、ロイはニヤニヤ笑みを浮かべ
「なんだ、鋼の……泣いてるのか?」
そう聞いてきた。

「泣いてねー…よ、もういい、食事なしの方向で!」

俺の代わりに猫置いてくよ。
食事なしという言葉に、ロイはガタンと音をたて立ち上がった。
それと同時に、部屋に小さな笑い声が響いた。