窓の雫


少し大きな黒い傘は、雨を凌ぐにはよかったものの
移動にはかなりの邪魔になってしまった。
もう随分時間が経っているのに、見つかる事がない。

小さいから見つからないのかと、そんな事を思ってみるが
本人にこの思いを聞かれた時は
殴られる事を覚悟せねばならないな……。
ロイは苦笑いしながら、差していた傘を閉じた。
雨に濡れてしまうが、探すのに動きやすくはなった。
今更、無能と言う奴もいるまい。
雨など、とうの昔に降り始めていたのだから。

空を見上げるが、雨は止みそうにない。
周りを見渡すが、人は一人もいない。
この状況に小さく溜息を吐きながら
ロイは、周りの建物の窓にふと視線を向けた。
進んでいた足も、視線を向けた窓の前でピタリと止まる。
濡れている事も構わず、ぼーっと窓を見つめた。
そこには、ぼんやりと自分が映っている。
「……まさかな」
周りをキョロキョロ見渡して、もう一度
窓に映った自分を見つめた。

そして、ロイは沢山ある道の中から、一本の道を選び
ゆっくりと足を進めた。


分かれ道なんて山ほどある。
しかも道は複雑に入り組んでいて
道は繋がっている…というわけにはいかない場所だ。
一本に決めて進んでみて、もしエドワードがいなかった場合
もう一度、大通りに戻らなければならないという
手間のかかる面倒臭い場所。
面倒臭い分だけ、テロなどがあった時などには便利な場でもあるのだが。

「自惚れてもいいだろうか……」

ロイが選んだ道は、後ろを振り返ると
1番、ハッキリと司令部が見える位置にある道。
もちろん、ロイにはエドワードがこの道の先にいるかなど
分かってはいない。
確信もなにもない。
ただ、自分がもしエドワードの立場なら……。

きっと、エドワードが追ってくるかもしれないという
小さな予想と、大きな希望を持って
その追ってくる相手がいる場所が、1番見える位置を
選ぶだろうという。

イヤ、選んでほしいという。
ただの願いだ。


「ったく、何もないじゃないかッ…」
苛立ちを口にしたのは、この道をしばらく進んでからの事。
何もないというのは、エドワードの事ではなく
『雨宿りする場所がない』という事。
視線に入るのは、雨宿りできそうな場がない建物と
傍を通っている川ぐらいなモノで……。
手に持っている傘が邪魔だと思いながら、しばらく小走りして
ようやく、遠くの方に屋根のある雨宿りできそうな場所を見つけた。

と、同時に……川の中に見覚えのある
赤いモノが浮いているのが目に入った。