雨の香り


確かに俺は子供だ…何も出来ない。
けど、イヤなんだよ、何も出来ないからこそ
守られているだけの存在なんて
なのに、アイツは『大人しくしていたまえ』とか何とか言いやがって
イヤだと言えば、『逆らうのかね?』だと…
あぁ…逆らいますよ、えぇ…逆らいます!

ワナワナと震えた両手で、ドンッと机を叩いた。
手がじーんとして痛いが、この場合そんな事はどうでもいい。
静かな空気の中、何も言葉を放つ事ないロイに
イライラは頂点に達した。
「もういいッ…」
そう一言残し、ロイに背を向けて部屋を去る。
バンッと音を立て扉を開け、同じくバンッと音を立て扉を閉めた。


外を早歩きで歩く。
司令部を抜け、賑やかな大通りを抜け
人通りの少ない場所までやって来た所で足を止めた。
振り向いて、遠くに見える司令部を見るけれど…
やっぱり、追っては来ないよな
そう思いながら、エドワードは溜息を吐き、また足を進めた。
しばらくすると、独特な香りが鼻をかすめる。
「雨……」
ボソリと呟き、立ち止まり空を見上げると、見事に雨雲が空を覆い
今にも降ってきそうな天気。

そこで思い出すのが、そういえば、少し前に
降れ降れ坊主を嫌味で作って、窓に付けていた事。
「……まさか、アレが原因で降ってくるんじゃねーだろうな…」
現実そんな事はありえないだろうが
なんとなくそう思ってしまうのは
エドワードの心のどこかで、ロイを想っているからであろう。
それが、愛しい感情なのか苛立ちなのかの違いは別として……

ポツポツと雨の音がする。
気付けば人通りの少ないどころか、まったくいないこの場所。
弟は宿にいるし、傘を持ってきてもらうには少し遠い。
かといって、司令部に戻るという考えは浮かばない。
周りを見渡すけれど、雨宿りできそうな場所はなく
仕方なく、トボトボと足を進めた。
雨に濡れ、衣服が重い。
機械鎧の方が重いのに、何故か濡れた衣服の方が重く感じた。
ぴちゃっと水溜りの中に入り、その場で立ち止まる。
何故、あの場で怒って出てきてしまったのか……。
思い返して、唇を噛んだ。
本当に、何も想ってくれないなら……大人しくしろなんて
言うはずがないのがロイだ。
どうでもいい相手に、そんな事を言うはずがない。

守られるだけの存在が嫌だ。
けど、考えてみれば……
そう思う事がワガママなのかもしれない
もっと別の考え方を持って……
「怒られるうちが花ってか……」
想われてるから、口出しがくるんだ。
想われてるから、ガミガミと……

「だぁああーー、やっぱりムカツク」
色々考えはするものの、苛立ちの気持ちが上なようで
独り言を叫びながらエドワードはまた
雨の中、足を進め始めた。