嬉しかったんだ
汽車を待っていた。 夜中に、荷物を何も持たずに家を出た。 いいのかとエドワードが聞けば ロイはエドワードの頭を撫でて微笑んでいた。 汽車を待っている。 始発まで、あと少し。 エドワードはフードを深くかぶって ロイは、じっと汽車が来るのを待っていて もうすぐ、もうすぐ来るはずだったのに…。 あぁ…なんて酷い神様のイタズラ。 「離してッ」 まだ靄がかかるこの時間、叫びに似た声が聞こえてきた。 どこかで聞いたことがある声。 幼い頃、アイツだけは逃がしたはずだったんだ どうしよう。 もう来るんだ。 もう汽車が来るんだよ。 でもさ、でも…… 「エドワード…?」 ロイがそっとエドワードの顔を覗き込む。 エドワードはぐっとロイの服の裾を掴んだ。 皺になると思ったけれど、それでも掴んだ。 だって、今からする事によって ロイと一緒に入れるのが最後だと思ったんだ。 「金髪に金の瞳の子供ッ、お前だろ!!」 「違うっ」 一人の男性に連れて行かれそうな子供。 それを見た時、ロイは目を見開き驚いていた。 「あの子は……」 ロイは、連れて行かれそうな子供を覚えている。 買い物の帰りに町で出会ったあの子供。 エドワードとは少し違う髪色をした でも、どこかエドワードと似た子供。 鋼玉は治ると、病気だから治るんだと教えてくれた子供。 ロイがエドワードの頭に手をのせた。 見上げると、ロイはいなかった。 助けに行ったんだ、すぐ近くだったから大丈夫。 そう大丈夫だよ。 だから、そいつを頼むよ。 『あの……有難う御座います』 そいつは、鋼玉じゃないんだ。 『キミが無事でよかったよ…』 だから、そいつを頼むよ。 『ところで、汽車で移動って事は兄さんと一緒に治しに行くんですね……』 『兄…?』 そいつは、青い宝石の世界から生まれてきたけど でも、違うんだ、鋼玉じゃないんだ。 ロイと居れば大丈夫。 大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫だから 『聞いてないんですね、あの僕、アルフォンス・エルリックって言います 兄さんと、“一緒に”治しに行くのでは?』 『え…あぁ、“一緒に”』 「見つけたぞ……鋼玉っ」 霞んでいく景色に、自然と笑みが漏れた。 諦めの笑みだ。 だって、よく見てよロイ…。 俺の周りに、町の人がいっぱいなんだ。 きっとアルフォンスは連れて来られて利用されたんだ 囮 俺が弟の為に動くか ロイが俺から離れるかという アルフォンスは気付いていない、たまたま駅に来て こうなってしまったとしか思っていないだろう。 でも、鋼玉な俺でも今だけ分かった事があるんだ。 霞かかるこの時間に、髪の色が見えるなんて馬鹿みたいだと ロイは鋼玉を治す事に必死だ。 嬉しかった、嬉しかったから もう迷惑かけないからっ アルフォンスを頼むよ。 嬉しかった。 「ロイ……好きだと言ってくれて…」 嬉しかったよ。 『“一緒”じゃないんですか?』 兄さんの姿、見えないですけど 「嬉しかったんだ」 |