雪消ノ時 -10-


カサカサと葉の揺れる音が聞こえる。
それ以外の音は無。
静かにその場に立ち、落ちてくる葉を見つめていた。
しばらくして、その場を飛び立ち、ストンと木の上に降り立つ。

『かすが…お前、忍びに向いてないよ』

武田に向かった、ふざけた同僚が
忍びの郷を出発する前に残した一言。
思い出して、かすがは少しの苛つきを発散する為
目の前の木々にクナイを投げた。


修行場から戻ると、急ぎで長に呼び出しをくらう。
何事かと思い長の前まで行くと。
長は苦しそうな表情を見せていた。

「こんな事は…言いたくないが……」

小さな声で長は喋りだす。
かすがは、その様子を見て何の用事で呼び出したのかが分かった。

「暗殺ですか?」
「…………。」

長はここで、何人も何人もの忍びを成長させていく。
身寄りのない子を…まるで我が子のように大事にしてくれる。
あまりに大事にしすぎるから…忍びらしくない悲しみも伝えてくれる。
でも、それは本当の忍びには必要ない感情。

「行ってきます…場所は……」
「断っても…構わないんだが……」

長からしてみれば断ってほしいんだ。
でも、本当は断れない……それは依頼だから。
断れるなら、何も話さず断っているし
かすがの事を呼び出す事もないだろう。

「私は……」

『かすが…お前、』

長の言葉に、ゆっくりと頭を過ぎるのはアイツの言葉。

『かすが…お前、忍びに向いてないよ』

「長…私は、忍びですッ」

声が大きくなる。
馬鹿みたいだ、感情的になるなんて……。
そう思うのに、かすがはどうしても声を出さずにはいられなかった。

「………かすが…」

長は1枚の書類を差し出し、かすがは長の顔を見ずに書類を受け取った。
すぐにバタンッと音を立て、部屋の扉は閉じる。


「忍びでも……まだ子供で女の子だ……」




かすがは、目を潤ませながら片手に書類を持ち、空を駆けた。
暗殺の依頼が来た場合……暗殺に行った忍びが
郷に戻ってこれる確立は、暗殺される者の力量による。
長は分かっていたんだ、おそらく戻って来れない事を。
暗殺しなければならない人物の名を見れば分かる。

「上杉………謙信……」

軍神と呼ばれる者…とてもではないが
その辺の忍びが暗殺できるような相手ではない。

かすがは、目を瞑りながら、自分に忍びが向いていないと
言葉を放ったアイツの場所を思い浮かべ…。
暗殺前に、その場に向かうことを決めた。