雪消ノ時 -11-


「佐助ー!佐助、どこに居る……」
勉学から逃げ出した弁丸は、大きな声をあげながら
城の中をグルグルとまわっていた。
明日の夜……団子を一緒に食べると約束した。
イヤ、約束ではないが…きっと佐助なら守ってくれるだろう。

でも、どんなに叫んでも、佐助の返事が返ってくる事はない。

近くに居た兵士に、どこに居るのかと尋ねれば

「あぁ〜…猿飛さんなら居ませんよ」

なんて言葉が返ってきた……。


いない…?何故……。

『また消えてしまった……』

弁丸の脳内で、昔の事がスッと過ぎった。
猫は、死に際を見せないという。

「違うッ、佐助は猫ではないっ!!」

首を横に降りながら、また佐助、佐助と名を呼びながら
城の中をグルグルと回っていた。




その頃、佐助は既に城を出発し、戦に来ていた。
本来は、朝出発の予定だったが…。
信玄と佐助だけは早めの出発。
隣には、どんっと構え座っている武田信玄がいる。

「弁丸が……」

信玄の呟いた単語に、佐助はビクッと反応する。

「心配か?何も言わずに来てしまっただろう」

ニンマリ笑う信玄に、佐助は心の中でクソ親父めなんて
口悪く毒を吐いてみる。
あくまで心の中でだ…実際口にしたら、その場で命尽きそうである。

「弁丸様は…ゆっくりと自覚を持つべきです……」

生まれ持った運命と、その立場……周りの人間が
弁丸のためなら命をもいらぬと、体を張る事実も。
そして、その体を張る人間は……
主人に言葉にせず、消えゆく事があるという事を。

「そうであろうが……今回はお主が悪いぞ、佐助」
「え……」

笑みを浮かべていた信玄の表情が、一瞬にして変わった。
その様子に、佐助は意味が分からずに
ただ、その場で信玄を見つめ…
弁丸は今、どうしているのかと考え始めた。




どこを探しても居ない。
誰に聞いても、居ないと答えるだけで
居場所を教えてはくれない。

「佐助ー……さ…すけ……」

小さい声を出しながら、弁丸は庭の真ん中で座り込んだ。
着物に土が付くが、そんな事は関係ない。
いつもなら、佐助が怒ってくるのだ。
汚れる、洗濯する身にもなりなさいって……

『いつか…貴方の傍に……』

「嘘だ…やっぱり、居ない」

この日、初めて…弁丸の頬に小さな滴が零れ落ちる。
母の死から堪えてた涙は、なかなか止まる事なく
庭の土を濡らし続けた。