雪消ノ時 -8-


泣きそうになる、でも…弁丸の瞳から、雫が落ちる事はなかった。
その様子をチラリと見ては、佐助は苦笑い。
泣けば楽になるものを…
そう思うが、口にする事はなかった。


それからというもの毎日、毎日、茶屋に通う。
そんなある日だった。
弁丸が団子を片手に、急に立ち上がる。

「満月の夜に、縁側で団子を食べようッ」

何を言いだすかと思えば、団子の事で…。

「結局、団子ですか…」

佐助の表情は、呆れ顔。

「主役は団子ではないッ、満月だ!」

佐助の呆れ顔を見て、弁丸は‥むきになって言葉を返す。
どうやら、たまには昼間の景色から、夜間の景色に変えて、
結論、団子を味わいたいという事らしい。

「次の満月まで、あと5日らしい…楽しみだな、佐助」

もう、弁丸の中で決定事項になっている様子。
満月の日にちは、茶屋の亭主に聞いたらしい…。
子供の癖して、やる事は早い。
これが普段の勉学にも、生かされればいいのに…。

思う事は多々あるが、やはり佐助は口にしない。
口にしても、いつもの結果は……。


「弁丸様ッお待ち下さい!」
「嫌だ!勉学など知らぬッ」

こういう形。
弁丸が勉強するのは嫌だと逃げ、躾を仕事とする者は必死になって追い掛ける。
佐助が馬鹿馬鹿しいと思い、溜め息を吐けば、
弁丸を追い掛けている一部の兵士などに睨まれる。
世話役の責任だろうが!
そう言いたげな目つきで…。
しかし、佐助が弁丸に口にしないように、皆佐助に対して話す者はいない。

弁丸のお気に入りの忍び。
それが、今の佐助の位置である。
何をするにも、どこに行くにも弁丸は佐助を連れていく。

まるで、弁丸の半身になったような気分になる。
そんな佐助の思っている事など知らず、弁丸は城の者から逃げ続けている。

「茶屋から帰ったら勉学に励むと、約束を忘れられましたかッ」

かなりの勢いで、弁丸はあっさりと捕まった。

「あらら……」

結局、捕まったんだ…。
佐助は呆れながら様子を見つめ、弁丸は、頬を思いっきり膨らまかせ
兵士の一人に抱きかかえられていた。
こんなに幼くとも、一応、主人なわけだが……。
どうもこういう場面が多く続くと、呆れを通り越す
そんな事が佐助にもあるようだ。
言葉はまだ敬語交じりだが、確実に砕けていく。

現に、頬を膨らまかせた弁丸が、じっと佐助を見つめると
佐助は、声には出さなかったが

『バーカ』

なんて口パクで言ってみたりしていた。

もちろん、後日…。
佐助が弁丸に馬鹿ではないと責められたは言うまでも無い。