雪消ノ時 -6-


「すまぬ……」
静かになった場で、出てきた言葉は
弁丸の言葉だった。
子供らしい子供だと…本当に誰が決めたのか。
誰よりも子供らしくない…まるで、もう武士のようだ。

「…皺になりますから、離して下さい」
「あ…す、すまぬ」
何か言われるとビクビクしていた弁丸にかけた言葉は
服の皺の事で、佐助の予想外な言葉に
弁丸は驚きながらパッと手を離した。
「で、どこ行くんです?」
「え…?」


『もう…よいっ、佐助は違う』

そう言いながら、たかが忍びを庇った主。
佐助は、頭の中で言葉が繰り返し繰り返し流れていた。
力を試された事に、不快は感じない。
本当に信頼できるか、疑うのはよくある話。
特に、買取りではなく一時だけ力を貸す場合の忍びなら
尚更、よくある事なのだから。

子供だとはいえ、守られる側の人間が…
守る側を庇うなど…。
佐助にとっては、考えられない事であった。
他の人間とは違う人間なのか
それとも、何も知らない純粋な子供なのか

『簡単に消えるモノは、命を預けたりしないッ』

簡単に消えるモノでも、命を預けるのが忍びなんですがね。
とは、言えるわけもなく…。
何気ない会話で、言葉を繋ぐ。

「だから、最初に『行くぞ』と申されたでしょう?」

その言葉に、弁丸は小さく笑った。

「茶屋だ!!」
大きな声で言った後には、また佐助の服を
ぎゅっと掴んで走り出す。
そういえば、弁丸は団子が大好物なんだとか…。
信玄の言葉を思い出し、佐助は弁丸の背を見つめながら
後をのんびりとついて行く。

弁丸はどこか、他の人間と違うのでは…
そう思いながらも、この時
佐助は、ただの仕事としか考えないようにしていた。
何もかも、仕事として割り切ってきたのだ。
今更何を思うのか……。

「佐助がいると、茶屋に行けるから嬉しいぞ」
「まぁ…一人じゃ行かせられませんしね」


罵られると思っていた…。
力を試す事で、自分が裏切った気分になっていたのだから
尚更…罵ってきて、もしかしたら叩くのかとも思っていた。
なのに、佐助は違った。
自分が言った言葉と同じ通り、本当に違ったのだ。

『だから、最初に『行くぞ』と申されたでしょう?』

佐助は分かっていたはずだ、この行くぞという言葉は
力を試すための場まで連れ出すための言葉で
本当に出掛けようとしていた言葉ではない事を…
なのに、佐助は出掛けないのかと聞いてきた。

こんなに嬉しい事があっていいのだろうか?

嬉しさのあまり、弁丸は佐助を引っ張りつつ
少し足早に茶屋に向かった。