雪消ノ時 -5-
「ま、仕事なんでね…今、俺の命は貴方のモノですよ」 その言葉を聞いた瞬間、弁丸は目を見開いた。 まさか、そんな言葉を言われるとは思っていなかった。 前の忍びも、その前の忍びも…こんな小さな主に 命を捧げる、いや預けるような発言は出てこなかった。 一人は…弁丸の笑みを見て、裏切られたと思い 弁丸を守ることをやめて、己の身を守ることに徹したり 一人は…攻撃の多さに弁丸の傍を離れすぎてしまったり それの繰り返しだったのだから…。 「や……」 止まぬ攻撃に、弁丸は口を少し開いた。 その言葉を聴きながら、佐助はクナイを順に落としていく。 「や…めい…やめいッ!!もうよいっ」 小さな体全身から出た、大きな叫び声。 弁丸は叫びながら、佐助の服を思いっきり引っ張り 後ろに隠して、止まない攻撃の前に立ち両手を広げた。 「なっ!」 弁丸を護衛する事が仕事なのに、今…弁丸に守られている。 人間として、どうか分からないが…。 主として失格なその行動、そして守るべき忍びとして失格な自分 自分は仕事を、ちゃんとさせてもらえないのか そう思うと同時に、弁丸の行動には驚きを隠すことができないでいた。 ピタッと攻撃が止む。 これで、やはり実力を見るために武田の者が 佐助を狙ってやったモノだという事がすぐに分かった。 「弁丸様……」 クナイが飛んできていた方向から、小さく声が聞こえた。 「もう…よいっ、佐助は違う」 目をぎゅっと閉じて、小さな手で佐助の服を掴んだまま 前に乗り出して叫ぶ弁丸を見て…。 佐助は何も言えないままでいた。 「簡単に消えるモノは、命を預けたりしないッ」 子供らしからぬ言葉、しかし手は服を掴んだまま。 皺になるのも気にせずに掴んでいる手は、少しだけ震えていた。 無言の時間が続き、しばらくして気配が消えた。 おそらく、弁丸の言葉に従い、武田の者は全て城の中に戻ったのであろう。 |