雪消ノ時 -3-


武田信玄の下にやってきた猿飛佐助は
信玄のすぐ横に立っていた子供に自然と視線が向いた。
話を聞けば、すぐに戦に出るため
その間…子供の護衛をして欲しいというモノだった。

子供の名は、弁丸…。
こっそり信玄に聞かされ得た情報では
笑って騒いで、団子が大好物という
子供らしい子供だという…。

「佐助と申したな」
「はい、弁丸様…」
信玄が戦に出て行き、見送りをした後に
弁丸は佐助の顔を覗き込み声を掛けた。
何かと思ったが、佐助は主人の声がかからない限りは
顔を上げることができないので、下を向いたまま…。
「行くぞ…!」
すると、弁丸は下を向いたままの佐助の腕を掴み
さっさと前を歩き始めた。
「え、ちょっ…」
自分も子供だが、それよりも小さい子供に
腕を引っ張られ、城の外へと連れ出される。

「っ…怒られますよ弁丸様」
護衛がいなければ、危険だと思われる子が
勝手に城の外へと出て良いものなのだろうか?
守れと言われれば守る、それが仕事だからだ。
だから、例え外へと出ても構わないのは構わないのだが
仕事が簡単で貰えるお金が多いなら越したことはない。
「別に…怒る相手もおらぬ」
佐助の言葉に、弁丸は小さく呟いた。
それは、信玄の事を言っているのであろうか…
いや、信玄は怒るという行為はしないだろう、別の事はしそうだが。

「あー、怒られるの俺なんですけどね……」

子供相手だからなのか、つい佐助は口にした。
その言葉にピクリと反応して、弁丸は門の前で足を止めた。


一瞬、ここは何もない空間なのかと思うぐらいの空気が流れる。
静か過ぎて、急に怖くなった。
腕はしっかりと弁丸が掴んでいて、離すことはないのに
何も喋らない、何も話さない…。
いつもは自分が相手を恐怖に陥れる側なのに
何故か、この小さく幼い子供に……。

「来るぞ?」

空気が変わったと思った瞬間だった。
弁丸は佐助の方を向き、一言言いながら
子供らしい笑みを浮かべていた。