背中と手 -前-


「佐助ー!佐助はおらぬかー」
大声で叫ぶ幸村に、佐助は溜息を吐きながら
のんびりと現れた。
「なんですか、旦那…」

大抵、こうやって大声で呼ぶ時は
『団子を食べに行くぞ!』だとか
『修行に付き合えっ!』だとか
佐助にとってろくな事がない。
団子を食べに行く、別にいいじゃないかと思えば
貨幣は佐助が出すのが決まりのようになっている。
ちょっと待って下さいよ旦那…なんて言葉かけても
口に団子を頬張って、言葉にならない言葉を出してる始末。
修行なら修行で、良いと思うのだが…
この庭で、炎を使われても困るというモノ。

「団子を食べに行くぞ!」

はい、予想通りの言葉をどうも有難う。
佐助は小さく溜息を吐きながら
「旦那〜、俺もそんなに無いんだからさ…」
手持ちの貨幣はそんなにないと言い、両手を肩の位置で上に上げ首を振る
「何を言っておる…今日は某が出すから付き合えと申しておるのだ」


幸村は、音に出せばルンルンと言ったところか…。
気分よく、部屋着から着替え佐助の手を引く。
佐助はぼーっとしたまま、幸村に引っ張られて付いて行った。

まさか、いつもとは違うパターンでくるなんて考えもせず
言われた言葉にしばらく固まってしまったほどだ。
引っ張られ続け、ふっと顔を上げると幸村の背中が見える。
背中を見て思い出すのは、そういえば…昔もこんな感じだったのかと



『さすけぇー!さすけぇー!!』
『なんですか弁丸様』
毎度の言葉で、呼び出され…何かと思えば
急に腕を引っ張る弁丸。

『団子を食べに行くぞ!』

『はい?』

自分より小さな背中が目の前に…。
ぎゅっと袖を掴んだまま、弁丸は佐助を離す事なく
前へ前へと進んでいく…。
この時も、こんな背中だっただろうか…。



思い出して、佐助はクスクス笑い出した。
「佐助、何をしておるっ!!さっさと足を進めぬか」
「あーはいはい、行きますから…」