雪消ノ時 -2-
「武田…?」 忍びの長に呼び出され、突然告げられた言葉に 佐助は小さく表情を変えた。 「そう嫌そうな顔をするな…」 そんな佐助の小さな表情の変化を見て 呆れ声を出しながら長は 佐助に数枚の書類を渡し始めた。 その書類には、武田の情報が一部のみ記載されていて 内容は、偵察などの忍びの任務から… 「コレ……」 目の前に、出された書類の束にウンザリな気分。 仕事だから仕方ないと思うのだけれど 仕事量を見て、割りに合わない気がしてならない。 書類を1枚1枚目に通して、ふと見つけたのが 『弁丸』という名だった。 「武田家の大事な子よ…」 「ふーん……どう考えてもお守りになりそうなんだけど」 長の言葉に、大きな溜息を吐きながら 佐助は、部屋を出て行こうとする。 それと同時に、長が呼び止めた。 「今回は…買取りではない」 その言葉に、ピタリと足を止める。 「ま、そりゃそうでしょ…ちゃんとしてきますって」 長の方を見ずに、右手を横に振った。 忍びには、一時だけ力を貸す場合と 軍そのものが忍びを買取る場合とある。 力を貸す場合は、仕事量もそこそこで料金もそこそこ 時が経てば、忍びの郷に戻ってくる。 買取られる場合は、仕事量はその軍によりけり 料金は莫大な金額となる。 その代わり、忍びは郷に戻ることなく、ずっとその軍に仕える事になる。 「死ぬも生きるも仕事として割り切るのは…」 前に進もうとして、また長の言葉に止まる。 「忍びとして良い面だがな……」 「何が言いたいんですか?」 ゆっくりと振り向いた佐助の表情は冷めていた。 仕事として割り切って何が悪いのだと そういう視線で、光のない瞳で……。 「イヤ……」 佐助の表情を見て、声を聞いて 長は、言葉を飲み込んだ。 「大丈夫ですよ、仕事はちゃんとやりますって」 ふっと笑みを浮かべて、佐助はその場から姿を消す。 「忍びとして良い面でも……人として、悲しい面でもあるのだがな…」 長は椅子に座り、書類を1枚手に取った。 その書類には、佐助の何かを変えてくれるのではないか そう思われる人物の名と情報が少し。 「弁丸……か…」 小さく呟きながら佐助は、早めに仕事を終わらせたく 書類を懐に入れ、武田軍の元へと向かった。 |