誰がお前のだ


「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
目の前で不機嫌な犬っコロがシャム猫と任務に向かっていった。
それをぼーっと見つめるの頭を、コムイが軽く突付く。

「駄目だよ……君は、徹夜明けなんだ」
後を追おうと思っていた所で、何かを行動する前にストップがかかった。
徹夜はコムイ達も一緒じゃないか、なんて酷い
やはり俺の恋路を邪魔する気なんだ……。
「うぅ……俺のティムちゃん」
手すりにぐったりもたれ、手をぶらぶらさせながら
もう見えなくなったアレンと神田、そしてティムキャンピーを想う。
「……アレンが心配じゃないのか」
右上の方から、リーバーの声が聞こえてくるが気にしない、気にしないぞ。
アレンの事が気になっていたのは正直な気持ちだが
あのシャム猫は、危険だと思っても逃げたりはしないし
正義らしく、紳士らしく解決させるのではないかと思っている。
だから、心配というより興味の方が正しい言葉なのだが……。
まぁ問題とするならば、犬っコロと一緒に居るという所だろうか。
「アレンっていうより神田が心配」
ぼそりと呟いた言葉に、コムイがぴくりと反応した。
「神田くんは……」
「俺のティムちゃんを誘惑しないかな、あのさらっさらな黒髪で!!」
誰がお前のだ、とリーバーからの的確な突っ込みをさらりとすり抜けて
何かを言おうとしたコムイの言葉を、一刀両断した。


寄生型は、感情や体力に大きく影響される点がある。
だからこそ徹夜明けだから駄目だと止めたのだろうが
がこれで大人しくしているはずもない
それはコムイとて承知だった。
大きく聞こえるように溜息を吐いたコムイは、の肩をぽんぽんと軽く叩き
「飛び乗り乗車……するなら安全な所からしなさい」
そもそも飛び乗り乗車自体が、危険だという事を理解しているのだろうか
俺の世界には、飛び乗り乗車なんてそんな危険な事……。
でも、こちらの世界では“汽車”なのだから大丈夫なのだろう

大丈夫……なのか?

「おう!頑張る」
微笑んだは、立ち上がりその場で伸びをしてから
ゆっくりと教団を出た。



一方で、飛び乗り乗車になんとか成功したアレン、神田、探索部隊のトマは
黒の教団という名の元で、一室を用意された。
「やっほー、遅かったね」
否、用意されていた。
「何故ココにいる」
六幻を出すか出さないかの神田睨みが、用意された部屋の隅に向けられた。
先に出た者より、先にこの汽車に乗っているという事は
どういう事だとイライラする神田と
ココにいるはずのない人間に遭遇して、口をぽかんと開けたまま
固まったアレンとトマ。
予想通りの反応だと、クスクス笑ったのは
ゆっくりと教団を出発した、であった。

「何でこの奇怪伝説とイノセンスが関係あるんですか?」
アレンと神田が席に座り、トマが部屋の外で立った所で
アレンの質問タイムが始まった。
面倒臭そうな表情を見せた神田が、チラリとを見たが
は、微笑んだまま何も喋らない。
お前が質問受けてるんだ、お前が答えやがれ。
神田とのアイコンタクトは完璧だ。
「チッ」
舌打ちをした後に、喋りだした神田を見てはうんうんと頷いている。
話を聞いていたアレンは、その様子を見る事はなかったが
その頷きを視界に入れてしまった神田だけは
面倒臭い説明をしなければならないし、鬱陶しい奴がついてきたと
イライラは、いまだに健在であった。

「あの……は、任務なんですか?」
説明が一通り終わった所で、今度は神田ではなく
に対して質問が投げかけられた。
「俺…凄く心配なんだ」
「は?」
その質問に対し、は答えを言わずに
“心配”の一言を掲げてみた。
アレンは意味の分からないという表情を見せ
神田は相変わらず、眉間に皺を寄せていた。
「シャム猫に食べられてしまわないか……ティムちゃん」
両手を胸の前で組み、神に祈るかのようなポーズで言葉を放つ。
アレンの肩に乗っていたティムキャンピーは、の言葉を聞き
パタパタと飛んで、の肩に移動した。
この間、は斜め上を向き、目を瞑った状態だ。
「この黒髪に誘惑されて食べられてしまわないか……ティムちゃん」
黒髪と言葉にした時にチラリと神田を見て、また目を瞑り斜め上を向く。

ようは、ティムキャンピーが心配なだけだろ
ぼそりと神田の口から言葉が出た。
「正解です、大正解ですよ神田くん……俺のティムちゃんに何かあったら
 とりあえず覚悟を決めようか」
今日の微笑みは絶好調のようだ、神田もアレンも少し引いている様子が見えた。
絶好調といえば、突っ込みもだと思われる。
誰が貴方のですかっていうどこかで聞いたような突っ込みは
見事に、本日2回目だったりするのだから。

「あ!そうそう、言い忘れてた……俺、任務じゃないから」

手は一切、出さないからね

微笑みついでに、アレンの質問にも答えたは満足そうに
ティムキャンピーを、ふにふにと撫でていた。
「出さないって……」
「俺は戦わない、助けない、口出ししない」
の言葉は、部屋の空気が止まったかのような空間を生み出した。
静かな時間が数分だけ流れる、聞こえるのは互いの呼吸だけ。

「どうして…」

アレンの言葉が沈黙を破った。
ふと、脳内でに言われたあの言葉が過ぎる。
必ずAKUMAを救済するなどと信じているのかという、あの言葉だ。
AKUMAは救済するもしないも勝手だ。
千年伯爵を倒すなんて事も、教団の勝手だ。

「居ないと思っておけ」

神田の小さな言葉がアレンの耳に届いた。
コイツは、気に入らない事がない限り、動かない。

逆を言えば、気に入らない事があった時は動くという事だ。
神田の言葉を聞き、アレンはを視界に入れたが
は微笑んだまま、酷な言葉を紡いだ。

「面倒臭い事は嫌い、鬱陶しい事も嫌い
 ついでに言うなら……あの時、言っただろ?“お前が嫌いだ”って」

の言葉が部屋に響き渡った時、汽車の停車音が聞こえた。