包帯くるくる


「こいつアウトォォオオ!!!」

門番の大きな声が、教団内に響き渡った。
その大きな声は、音となり壁という壁を駆け抜け
の耳の中に入ってくる。
あまりにも大きな声と、“アウト”という単語に
教団内は、あっという間に騒がしくなった。
昼間っから、なんと面倒臭い事か……。
門番のおかげで、コムイはコーヒーを口から噴射するし
ほら、俺にコーヒーがかかるだろ?
ハンカチやるから拭いてくれよ。
「ちょ、神田!包帯」
で、丁度任務から戻ったばかりの神田に巻きかけだった包帯は
神田が勝手に動き始めた為に、の手で握ったまま
スルスルと解けていき、床にふわりと落ちた。

絶対、シャム猫だ。
この前、別れたあの場所から、直でココに向かっているとするならば
これぐらいの日にちに、辿り着くだろうという俺の予感。
猫に反応するだろう犬は、包帯も巻かずに
六幻を持って出て行ったわけだし…。

『スパイ侵入、スパイ侵入!』

包帯をずるずる引きずりながら、コムイ達の所に辿り着く。
その様子を見たリナリーが駆け寄って来て一声かけてきた。
、その包帯…どうしたの?」
「犬の脱走……」
しょぼんと声を出したに、クスクス笑いながら
少し離れた所に見える画面に、視線を移したリナリーは
じーっと、あのシャム猫を見つめていた。

あぁ、世界がまた創られる
アレンという名のワンピース。

『コムイって人宛てに』

が包帯をくるくると、自分の手に巻きつけて遊んでいる間に
アレンと神田の戦いが進んでいたらしい
俺はアレンを知っているから、あえて心の中で言っておくが
愛しい愛しいティムちゃんがお傍にいるんだぞ?
ほら、神田もよく見てみろって……ぷいぷいって手を振ってるぞ
何々?今自分に攻撃してきたら、俺のお尻ぺんぺんしちゃうぞだって?
そんな可愛い手でぺんぺんしてくれるなら、本望だ。
ま、大丈夫でしょう…神田はアレンに攻撃してるし。
でも、神田も人の話を聞かないトコロあるしな……。
神田も…?いや、間違い間違い、神田は人の話を聞かないんだ。
黒の教団っていう主人に忠実な犬?
いやいやいや、それは違うな

自分自身の考えに忠実なんだよ、あの犬ッコロめ…!

アレンがコムイの名をさらりと発言した為
教団内に居る皆の視線が、コムイに向く。
「そこのキミ!」
「は、はい?」
あ、犠牲になるぞ、指された奴は犠牲に…
思っていたら、まぁ見事に指された人は犠牲者となった。
コムイの机の上の手紙を、数名で発掘するハメになったが
はその様子を見ているだけで、また包帯で遊び始める。
この包帯の主が戻ってくるまで、遊び続けてやるんだと
リナリーに意気込んでいる様子を、科学班が見てケラケラ笑っていた。
発掘は予想よりは早く終わった。
アレンが入団者だと理解できた頃には、科学班の騒がしさはピークを迎える。

その騒がしさの中で、は小さな笑みを浮かべながら皆の様子を見ていた。
この様子だと、神田はイライラしながら戻ってくるだろうし
リナリーは、アレンの案内に借り出されるだろう
「リナリー、ちょっと準備を手伝って…久々の入団者だ」
ほらな?
アレンはきっと、ヘブラスカの所に連れて行かれるだろうし
どうするかと考えていた所に、リーバーがそっと声をかける。

、お前さ…どうなんだ?」
「は?何が…」
かけてきた声は、とても小さなモノでかなりの小声。
そんな声でに問いかけるのだから、何か大事な用なのかと
緊張して言葉を返したが、内容は別に小声でなくてもいいものであった。
「その団服……動きやすいか?」

新しい団服は科学班が製作していて
今までは、すぐに支給という形だった。
しかし、それが気に入らないと声を出したのがだった。
製作をずっと続けていて、いくら製作技術がよくて
服の寸法も完璧だと話していても、製作している科学班が着るわけではない。
着るのは、戦闘を行っているエクソシスト。
服というのは寸法がよくても、動きにくいなど個人差がある。
エクソシストが動きにくかったら、命にかかわるのだと
コムイに文句を言ったらしい……。

『お前な、動きにくくなって…俺の日課が
 果たせなくなったら、どうしてくれるんだっ』

とね……。
あ、もちろん俺の日課はリナリーの……。
まぁ…コムイは不気味な笑いを奏でながらドリル出してきたけどな

「動きやすいんだけど、デザインがなぁ……」
ボソリと呟くとリーバーがかなりの勢いで喰い付いてきた。
今、が着ているのは、左肩がビリッと破かれた団服。
イノセンスが左肩にある為、止むを得ずという名のもと
は思いっきり口で破いて、現在着ている。
「じゃあ、肩出して、アームカバーしてだな……」
喰い付いたリーバーの目がキランと光っている。
これは、なんだろう……。
製作意欲でも湧いてきているんだろうか

「よし、明日には作るからッ」
「は?」
「大丈夫だ、お前の体型の型紙はある!」

リーバー達、科学班の目の光り方が異常だ。
いつもならアリエナイ事。
製作など面倒臭い、しかし仕事だし皆の為だし
そんな感じで作ってる奴等の目が光ってるんだぞ。
「な、なんだよ…別に……まだコレ、着れるし」
この勢いが怖くなって、はビクビクしながら
ゆっくりと後ずさりしたが、あと一歩で逃げれるという所で
リーバーに、ぐっと腕に巻いていた包帯を掴まれて確保された。

「着れるだけじゃ、ただの服だ!いいかっ団服ってのはだな」
「……も、リーバー何がしたいんだよ」
とりあえず、その掴んだ包帯を放してくれ、腕の解放だ、解放!
パシンッと手を払うと、科学班全員の瞳がゆらゆら揺れて
完全に、涙目になっていた。

「製作、させてくれっ…頼む、
リーバーの顔は、マジだ。
本当にどうしたんだよ、と思ったが……。
理由が、ふっとした事で分かってしまった。
今、仕事が少ない者は掴まるんだ……。


あの机の上の手紙の処理という名の地獄に


「あ……うん、製作……頼もうかな」

こんなに必死な科学班は、なかなか見れない。
助けたいと思うし、何より…助けなかった日の
科学班の黒いオーラーを見たくないというのが俺の本音だ。
巻き込まれるのは勘弁してほしいというのも本音だ。

頼んだ直後だった、コムイがヘブラスカの所から帰ってきた。
アレンはきっと部屋に案内されたのだろう
コムイはこちらに帰ってきたのだよ
1人じゃないよ、俺の愛しいティムちゃんも一緒にっ
ほら、またティムちゃんが俺に手をぷいぷい振ってくれてるよ
ティムちゃんからの熱い視線。
やはりこれは恋でしょう!
顔のニヤケが止まらないまま、コムイの近くではなく
ティムキャンピーの近くに足を進めようとした時
腕がぐいっと……包帯がぐいっと……

「は?」
「型紙はあるが、アームカバーにするなら新しく採寸しなきゃだな」

リーバーの光った目は、の移動を許さなかった。
え、このすれ違いは何?
一度としてティムちゃんに触れぬままなのですが
コムイはこちらを見て、口パクで何かを言っている

『ざ・ま・あ・み・ろ』

…………コムイ、貴様いつの間にそんなに口が悪くなった。

俺は神田に包帯を巻くことも許されず
ティムちゃんに触れることも許されず
アレンとの会話もなし、リナリーに対しての日課も許されず

何故か科学班に囲まれての採寸状態。
まぁ、近づいてこない探索部隊の雰囲気よりも
こうやって、ぐしゃぐしゃの揉みくちゃにされる
科学班の雰囲気の方が、楽しいからいいのだけれども……。

呆れた顔から最終的には笑顔になる。
その場を楽しむに、科学班も自然と笑みが増えていった。



ところで、包帯そろそろ取っていいかな?
このまま採寸されると、アームカバー…太くなるんだけれど。