笑顔になれる所
「もう、行くんですか…?」 アレンの看病を始めて2日目の夜。 ぼーっとアレンを見つめていたの耳に 透き通った声が聞こえてきた。 誰が見ても、椅子から立ち上がっていないし 誰が見ても、旅支度をしてる様子もないのに アレンは、上半身をベッドから起き上がらせ の方をじっと見つめてくる。 視線が痛い。 猫の目っていうのは、可愛いのかキツイのか分からない。 「何故、そう思う?」 「『俺は、お前が嫌いだ』なんて素敵な告白、されたの初めてですから」 嫌いな人間の看病の為に、いつまでも居続けるほど 貴方は、自己犠牲しないタイプだと思ったんです。 淡々と言われる言葉に、小さな笑いが出てきた。 嫌いだなんて言われておいて、それを告白だと言い。 こういうタイプだと思ったと言いながら 離れていくのが寂しいのだと声に出ている。 猫だと言い始めたのは俺だが、本当に猫みたいな奴だ。 「そうだな、アレンも明日か明後日ぐらいには動けるだろうし」 すっと椅子から立ち上がり、アレンの髪をくしゃりとした。 少しボサボサになった様子を見て、は笑い始める。 「何するんですかっ!」 の手をパシッと叩き落し、アレンはこちらを睨んできた。 「それだけ元気があればいいや」 の言葉に、アレンはぐっと黙り込む。 ほんの少しだけ沈黙が続いたトコロで、のゴーレムから ザーという砂嵐の音が聞こえた。 もアレンも共に、ゴーレムを見つめる。 その横で、ティムキャンピーがゴーレムの羽をつんつんと突いていた。 『………隣……AKUM……頼……む…』 砂嵐と共に、小さな声が聞こえてくる。 どうやら、隣の町でAKUMAが出たとの事。 「仕事だな」 ボソリと呟いたの口元を見たアレンは の団服の裾をぐっと引っ張った。 「行く前に、答えて下さい」 本当、猫の目っていうのは、可愛いのかキツイのか…。 を見つめてくるその視線が、とても真剣で 逃がさないと言ってるように見えた。 「遅い」 汗だくになってやってきたに対して まさにこれこそ一刀両断みたく一言。 周りには倒されたAKUMAの欠片がパラパラと地面に落ちていた。 目の前には、睨んでくる仲間。 エクソシストだから生き残れてるようなモノ。 探索部隊だったら死んでいた。 だから『遅い』の一言は正しいと思う。 けれど仕方ないモノは仕方がない。 「仕方ないだろ神田、捉ってたんだよ」 AKUMAの欠片を踏みながら、神田の傍まで歩いていく。 神田の周りには、AKUMAの欠片以外に見覚えのある欠片も転がっていた。 「……んだよ、死んだのか」 「ふん、コレしかできん奴等だろうが」 探索部隊の服が、欠片と共に落ちていた。 神田はいつも言う。 “コレ”しかできない。 コレ…エクソシストを庇う事。 「庇ってもらわなきゃならなかったのは、どこのどいつだよ」 その一言を放ったの首元に六幻の先が向けられた。 神田の睨みはキツクなる。 猫とは違った犬の睨みもまた、キツイものがある。 ただ猫と違うのは、言葉を発しない事だ。 「終わったんだろ、帰ろうぜ神田」 六幻の先で首元が斬れるか斬れないかのギリギリラインで はくるりと向きを変えた。 後ろから、相変わらずの舌打ちが聞こえてくる。 その舌打ちを聞きながら、はとんとんっと足を進め 別れて来た猫を思い出す。 『行く前に、答えて下さい』 この一言が原因で到着が遅れたのだが……。 何を答えるのかと聞けば、あの答えだった。 何故、エクソシストになったのか よくよく考えれば、大きな理由などなかった。 ヘブラスカの預言で、“唯一”と言われたのも一つ。 千年伯爵に仕返ししなければと思うのも一つ。 友人の謎を解きたいのも一つ。 色々あるからこそ言葉にできなくて けれど、たった一つ言葉に出来る事があった。 「おい…何笑ってんだ……」 後ろから神田の声が聞こえてくる。 言葉通り、はクスクスと笑いながら足を進めていた。 人間という生き物は 大半の人が、面倒臭い事は嫌いで 鬱陶しい事には関わりたくなくて そして何より、自分に被害がくる事を拒む。 でも、それでも面倒臭い事をして 鬱陶しい事に関わり続け 自分に被害がくる事すら覚悟して ナニカをしている人もいる。 他の人にとっては、何でもないような一言が 俺にとっては嬉しい事だってあるというわけだ。 「改めてコムイってイイ奴だなって思って」 背を向けたまま、神田に一言。 その言葉に、神田は顔を引き攣らせた。 「……馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ココまで堕ちたか」 「ハッ、神田……お前死にてーの?」 は神田に背を向けたまま 神田は、の背を見ながらの小さく静かな攻防戦。 言い合いをしながらも、歩む足は止めぬまま。 「コムイが居なきゃ、俺“ココ”に居なかったし」 「だから何なんだ」 サラリと俺は、大事な事を言った気がするのだが これまたサラリと神田に返された。 そよ風が頬を撫で、後ろに居る神田の長い髪をそっとなびかせた。 「何だって…もしかしたら敵だったかもよ?」 くるりと振り向いて、神田を見た。 急に何を言い出すのか、みたいな顔をしていれば… 面白かったのにな、とても残念だ。 神田はいつも通りの無表情、いや少々違う表情で 色々考える俺の脳内を、綺麗に刺激してくれるのだ。 「敵だろうと味方だろうと、お前はお前だろう」 ………はい、全てのお嬢さん…神田に拍手。 「俺は俺だけどさ、敵だったらどーすんのさ」 「斬る」 …………はい、お嬢さんお嬢さん拍手停止。 むしろ、全員で神田の顎めがけて アッパーの方向でどうでしょうか? 『んー、何故って…そりゃ』 “ココ”が一番、笑顔になれる所だろ? |