猫の名前


黒い鉄の柵で囲まれた墓地。
左肩のイノセンスを光らせながら
は柵の上に器用に立っていた。
「多いな……」
ボソリと呟いた言葉は、誰にも聞こえることなく
いや、誰もいない墓地に、聞こえるも何もないのだが……。

墓地を中心に、AKUMAの数が多い。
ナニカあるのだろうとは感じるが、それがナニカが分からない。
見つけたAKUMAの救済を終了したトコロで、町の方から叫ぶ声が聞こえた。
ふっと顔を上げて、柵の上から、屋根伝いに街の中心部に向かう。
「ったく、コムイの野郎、扱き使いやがって……」
イノセンスの発動を戻し、叫ぶ声の元へ急ぐ。

中心部にやってきた時には、AKUMAは既に救済されていた。
パタパタ飛んでいる金色のゴーレムを見つける。
「なんだよ、シャム猫くん……また会ったし」
と呟くに対して、視線の先の白いシャム猫くんは
目の前にいる、少年と会話をしていて
さすがに屋根の上の存在には気付かない。
「んー……やっぱり、ティムちゃん欲しいな」
屋根の上でしゃがみ込み、じっとシャム猫くんとティムキャンピーを見つめる。
見つめていると、ふとティムキャンピーがこちらを向く。
「………ティムちゃんは気付いてるってわけか」

ティムキャンピーは、小さな小さな手をぷいぷいっと振っている。
これは何でしょうか?
俺に気付いて手を振ってくれているという事でしょうか
それとも、俺が欲しいなんて呟いた言葉が聞こえてて
てめーの元になんか行くかよバーカ、なんていう意味の手の振りですか

そもそも、この距離からあの小さな手が見えてる俺の視力は
絶好調ですか、そうですか。
ところで、キミはどうやってあの猫のお腹の中から出たのですか
「………口から入って出るトコロって…」
想像しただけでブルブル震えるには気付かず
ティムキャンピーは、歩き出したシャム猫くんの後を追いかけながらも
コチラを見続けている。
「なんて熱い視線でしょ、コレは…恋デスカ!?」

チガイマス。



「何だ、コレ……」
アホな一人妄想をしている間にシャム猫くんは見失うし
AKUMAだと騒いでいた少年も見失った。
仕方がないので、AKUMAが大量に居た墓地の柵の上に
戻ってきたトコロで、ある場面に遭遇する。

千年伯爵とシャム猫くんと少年二名。

「いや、一名はAKUMAか……」

本来は、真っ先に出て行きAKUMAと千年伯爵と
戦わなければならないだが
柵の上から動こうとはしなかった。
エクソシストがAKUMAと戦わないなんて、前代未聞
だと言われようが気にしない。
エクソシストなら、墓地の中心にも一人居るじゃないか
偽者の笑みを浮かべながら、爪と牙を敵に向けている
白いシャム猫が……。
「お手並み拝見、シャム猫くん」
などと言いつつ、の左肩のイノセンスは光りだし発動する。
墓地の中のAKUMAは、シャム猫くんに任せ
は、墓地の外からやってくるAKUMAを一掃する気だ。

左肩を中心に大きな光の弓が現れ
墓地の外側に向けて、右手で弓を引く
光の矢が数本現れ、弓を向けた方向に飛び
外側に居た、AKUMAの半数が悲鳴を上げた。

お手並み拝見と言いつつ、手助けしてる自分が居る。
そんな滑稽な己の姿に、小さな笑みが零れた。
だが、肝心な千年伯爵には一切手出しはしない。
ココが前代未聞と言われても仕方ない点かもしれない。


独特な声で語り、笑いと共に去っていった千年伯爵。
消えていった先を見て、は片手をプルプル震わせていた。
「しまった……シャム猫くんのお手並み拝見よりも先に
 俺の頭をぶつけた仕返し、すればよかった……」
あの独特な声を聞いて、怒りがフツフツと沸きあがってくる。
今度はいつ会えるかも分からないのに、チャンスを逃すとは……。
ブツブツ呟いているの視線の先で、シャム猫くんがバタリと倒れた。
どうやら戦いの最初に、AKUMAの弾丸に撃たれたのが原因らしい。
寄生型だから、毒は浄化できても、受けたダメージの回復はできない。

それもそうだ。
エクソシストと名乗っても、人間には変わりない。

一緒に居た少年が、シャム猫くんの胸で泣き始めた。

「よっと……」
すとん、と柵から下りて墓地の中心へ向かい歩き出す。
足音に気付いた少年がコチラを向き
シャム猫くんも、動けない体をコチラに向けてきた。
「誰だよお前っ…」
先程、AKUMAに囲まれていた所為か、少年は気が立っている。
その少年に近づき、はぽんぽんと頭を軽く叩いた。
「俺は、エクソシストだ…そこのぶっ倒れてる奴を回収しに来た」
何を言ってるんだという目つきだったが、団服の十字架の紋章を見て
少年はピタリと黙り込んだ。
「なんだ、少年は知ってるのか…この意味」
右手の人差し指で、団服の十字架の紋章をトントンと指差した。
黙り込んで、こくんと頷く様子を見ると
十字架の意味ぐらいは知っているのだと分かる。
「なぁ、アレン……大丈夫かな」
シャム猫くんに近づいて、怪我の様子を見ていると
少年がの団服の上着をつんつんと引っ張りながら問いてくる。
シャム猫くんは、傷口が傷むのか、コチラに視線を向けながらも
何一つ、喋ろうとはしない。
少年は、その様子が気になったのだろう。
「大丈夫、キミの家のベッド借りてもいい?」
「あ、うん……」
大丈夫と言いながら、はアレンを持ち上げ肩に担ぐ
重いななんてブツブツ言いながら、少年の案内で家の方へ向かう。

「あの、歩けますからっ」
しばらく歩いたトコロで、肩の上から声が聞こえてくる。
…、俺は“あの”って名前じゃない」
さん、僕一人で……」
シャム猫くんは、どうやら俺に担がれるのが嫌いらしい。
なんて酷い仕打ちだ。
傷の様子を見て、運んでやっているという相手に
まったく、近頃の若いもんは人の好意を素直に受け取らない。
「名前」
スタスタ歩きながら、放った言葉は一言。

さんっ」
しかし、シャム猫くんは歩けるからという言葉しか言わない。
なんだ、とりあえず下ろせって事か?
馬鹿言うなよ、下ろした後、再度持ち上げるのが面倒臭い
再度持ち上げるは前提だ。
「名前」
「………アレン・ウォーカーです」
の下ろさない態度に諦めたのか、小さな溜息を吐いて
アレンは名を名乗った。