どうしようもないほど愛


 ここサンクトペテルブルクで暮らし始めてだいぶ経つけれど、ヴィクトルの仕事が沢山入りすぎてしまったのは初めてのことだ。
 朝起きれば置き手紙しかなくて、スケートリンクにもなかなか顔を出せていない。
 帰ってきても電気はついていなくて、眠気に負けた頃に扉の開く音がする。
 仕事での忙しさによって、最近はまったく会えていなかった。
 久しぶりに会えたのは一ヶ月後。
 明日は互いにお休みで、ようやくゆっくりできる。 そんな日だった。

「ただいま」
 まだ日が落ちる前。
 珍しく早く帰って来たヴィクトルはコートをソファに投げ、巻いていたマフラーを手に勇利の側まで足を進めた。
「おかえり、今日は早いね」
 疲れているであろうヴィクトルへ先にお風呂をすすめてみるものの、目の前に立ったまま動こうとしない。
「ヴィクトル?」
 首を小さく傾げ、覗きこむように見つめると、ヴィクトルは持っていたマフラーを勇利の背中に通して引っ張り寄せた。
「はぁー……勇利の匂いだ」
 首元に顔を埋めて大きく深呼吸をする姿は、どこから見ても大きな子供だ。
 会えていなかったとはいえ、何を言ってるんだと笑っていると、口を唇で塞がれる。
「んっ……ぁ」
 ふわりとマフラーが落ちて足元を隠し、隙間を縫って入り込んでくる舌に絡ませて応える。
 久々だからなのか、いつまで経っても離れようとしないので胸を叩き止めさせた。
 何故だと不満そうに口を曲げたヴィクトルは、思わぬ行動に出始めてしまう。
「わっ、ちょ……」
 軽々と勇利を荷物のように肩に担ぎ、マフラーを足元で絡ませながらリビングをぬけて行く。
 高級そうなマフラーがモップのようだと他人事のように思いながら、勇利はヴィクトルの背中を軽く叩いてみる。
 しかし、残念ながらおろされることはなく会話は進んだ。
「勇利、しよ」
「……発情した動物じゃないんだから」
 なかなか会えなかった。 気持ちは分からなくもないが、帰ってきてゆっくりする暇もなくそれはないだろう。
 会えない間に何があったのかとか、スケートや演技についてとか、食事をしながら話をしても許されると思うのだけれど。
「勇利とできるなら動物でいい」
 真面目に返されて、言葉が続かない。
 結局のところ担がれたまま寝室へと向かい、ベッドに緩やかにおろされた。
 余裕がないなんて珍しい。 仕事中にでも何かあったんだろうか。
 考えてる間に服は脱がされて下にまで手が伸びてくる。
「ヴィクトル!」
 さすがに無理矢理する気にはならないのか、名前を呼ぶとピタリと止まった。
 伏し目がちになったヴィクトルの頬にそっと手を伸ばし触れてみる。
「勇利…………愛してる」
 勇利の手に口付けながら、ヴィクトルの口から出てきた言葉。
 すとんと心に落ちてくる言葉に、勇利は表情を緩めて心の中で呟く。

 あぁ、どうしようもないな……。


 繋がってる、圧迫感。
 したたる汗と何度か射精した際についてしまった精液、ローションとぐちゃぐちゃになりながら続く行為。
「考え事かな、余裕だね?」
 そんな余裕があるように見えるなんて、どうかしてるんじゃないのかと言いたいけど、ここで怒らせるのは大変まずい。
 ヴィクトルとこういう関係になってから、ベッドの上で怒らせる自信なら山ほどあるんだ。
 幸せそうに笑みを浮かべたヴィクトルは、抜き差しを繰り返し、その度に勇利の口から出る嬌声。
「んっ…ぁ……」
 何度も聞いてきたけど、寝室に響くこの声を自分の声だなんて認めたくない。
 苦しくてでも気持ちよくて、流される快楽に溺れ続けてる。
 抜き差しから奥の一点に触れたとき、目がチカチカするような感覚に襲われた。
「ああ…あっ、うぁ……」
 ライトがついたり消えたりするかのよう。 ただそんな時でも、視界にはヴィクトルがいた。
 いつしか余裕がなさそうな表情へと変わっていたけど、相変わらず綺麗で美しかった。
 そんな麗しい人が、自分と繋がっている。
 ぐっと引き寄せられ深くなる繋がりに、もう言葉にもならない、ただ声が出るだけ。
「ひっ…んん……ぁああ……」
「……っ」
 ヴィクトルの口から吐息混じりに声がでた。
 同時に奥にも放たれて、繋がった部分はぐちゅぐちゅにとろけてる。
 繋がったまま、ふわりと体を傾けてきたヴィクトルは、勇利の胸を枕にした。
「ヴィク……トル……ぬ、いて」
 息を整えるので精一杯なこの状況で、次に何をされるかと思うと、この言葉がでてきてもおかしくはないと思う。
 久しぶりだからと、勢いでスキンもない生での行為。
 余韻に浸りたいかもしれないが、できるならかき出すだけでもしておきたい。
「なぜ?」
「……は?」
 何故を何故と返したい。
「明日は休みだよ、ずっと繋がっていよう?」
 先ほどまで余裕のなさそうな表情を見せていたはずなのに、いつの間にか意地悪そうな笑みを浮かべていた。
 本当にそういうところはズルいと思うんだ。
「繋がってたかったらスキンつけてよ!」
 やけになって出た言葉に、ヴィクトルの瞳が輝いたなんて、嘘だと思いたいよ。

 あの高級そうなマフラーが、マッカチンの敷物になっていたのに気づいたのは二日後のことだった。