ふわふわ


ふわふわ浮かんでいる感じ。
力は入らなくて、踏ん張ったって駄目だった。
雲の上に居るような、綿菓子の上に居るような
本当はそんな物の上に行った事はないし
留まった事もないので、実際そういう感じなのかは
分からないけれども……単純にイメージの問題だ。
季節は夏かな、気温が暑い所為なのか体はとても熱くて
機械鎧の部分も熱を持ってしまっていた。

厄介だ……。

小さく呟いたけれど、それは声にはならなかった。
もう声を出す体力すら残っていないようで
ただ、その場でふわふわ浮いている感覚が持続。
頭はくらくらするし、熱を持った体はだるい。
ふわふわ浮いている感じがするので、やはり踏ん張る事もできなくて
ふとした瞬間に、母親の顔が頭を過ぎり泣きたくなった。
あの頃は、頭がくらくらしたら母親に言い頭を撫でてもらい
体がだるかったら母親に言い、ベッドに寝転んで。
作ってもらったお粥を食べながら……。

凄く嬉しかったのを覚えてる。
正直体は辛かったけれど、いつも家事労働で忙しかった母親が
その時だけは、付っきりになってくれたから
思い出せば思い出すほど、泣きたくなってぐっと堪えた。
だって泣いたって何も変わりはしない。
くらくらするのも、だるいのも、母親がいないという事実も
泣いたって変わる事はない。
ただ泣く事で体力を消耗して、もっと辛い状態になるだけだ。
そう頭では思っても、やはり感情というモノは先に走っていく。
涙が頬に流れたところで、どこか遠くの方から声が聞こえてきた。
誰の声か分からないぐらい、まだ遠い……。
でも、自分にとってとても必要な声のような気がしてならなかった。
「………の、……がねの……」
少し低い声、聞いていると何か胸の奥がむずむずした。
でもまだ少ししか聞けてない。

もっと聞きたい。

思った時に、腕の方の機械鎧の接続部がひんやりと冷たくなった。
動ける…?
もう少しで踏ん張れる気がした。
するとまた、ひんやり冷たくなった場所があった。
接続部の次は額……。
まるで、濡れタオルを置いたような冷たさだと
ふと、あの声の主を思い出した。
帰れる、踏ん張れるし、冷えたおかげで熱もこれ以上は上昇しない
帰れるよ……。
口にしてみたら、先程と違い、ちゃんと声になった。
その声に反応するかのように、遠かった声が凄く近くで聞こえる。
「おかえり、鋼の……」
パッと目が開き、天井が見えた。
ぐるりと首を捻って横を向けば、少し離れた所にある椅子に
自分の赤いコートと黒い服がかかっていて
その横に、見覚えのある青い軍服もかかっていた。
もう一度、首を捻り反対方向に顔を向けると
何かが額から落ちた音が耳元でした。
「ごそごそ動くと、タオルが落ちる」
「もう……落ちた」
これでハッキリと分かった。
冷たくなった原因は、本当に濡れタオルだったという事。
額と、腕の接続部にそっと置かれていたのだと……
「母親には会えたかい?」
さらりと酷な事を言うのも、この声の主の特徴だ。
鬼と言うべきか、悪魔と言うべきか
「ん、無理……思い出だけ」
「そうか……」
会話は少しだけ止まった。

「涙を流したからね、会えたのかと思ったよ」
耳元に落ちたタオルをそっと拾い上げた声の主は
タオルを濡らし絞って、今度は額ではなく目に被さるように置いた。
「見えないんだけど……」
ぼそり呟くと、クスクスと小さく笑う声が聞こえる。
その声を聞いて、ムッとしたので
一言だけ爆弾を落としてやった。

「会えなくていい、アンタだけで十分だ」

タオルで視界は効かないが
なんとなく、声の主の表情が想像できた。

「最高の告白だ、鋼の」
「うるせーよ、馬鹿大佐」