[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
赤い筒
くるり、くるり、くるりと筒を回す。 小さな赤い筒の中を覗きながら、エドワードは回し続けていた。 ソファーに身を預け、目の前を軍人がドタバタと走り回っていても 筒を覗きながら、ぼーっとしている。 いつまで経っても、筒の中から目を離さないのを見て ドタバタ仕事に走り回っていたハボックが足を止めた。 「大将ー、何してんだ?」 「んー…あぁ……」 近づいて声をかけるが、エドワードの返事は曖昧。 ハボックに視線は向けず、ずっと筒の中を覗いている。 その様子を見て、ハボックはエドワードにそっと近づき 持っていた赤い筒をバッと奪い取った。 「あっ!何すんだよ…少尉」 見ていた筒を奪われたエドワードは、すっと立ち上がり ハボックの手の中にある筒を奪い返そうとする。 が、伸ばした手はまったく届かない。 必死に伸ばしている手を見て、クスリと笑ったハボックに カチンときたエドワードは、軽く足で蹴りをいれた。 蹴りをいれられ、握っていた筒を落としたハボックは 痛みで涙目になりながら、慌てて筒を拾っているエドワードを小さく睨む。 「ったく、何がそんなに大事なんだか」 ただの筒だろう? そんな声に、ふっと振り返ったエドワードは 小さな声でぼそぼそっと呟いた。 「似てるんだ」 「は?何が……」 何が似ているのだろう、何に似ているのだろう? よく分からずに、エドワードに問うと 目の前に、あの赤い筒を出され“覗いて”と一言。 覗いて見えたのは、さまざまな色や模様が見えた鏡の世界。 「万華鏡?」 「うん、似てるだろ?」 淡い笑みを浮かべて、エドワードはハボックを見つめた。 見つめられたハボックは、小さな溜息を吐きながら 手に持っていた万華鏡をエドワードの手の上に乗せる。 「…またか?」 ハボックの呆れた声に、苦笑いしながら 受け取った万華鏡を、ぎゅっと握り締めた。 コロコロと変わる色や模様。 ロイの心とそっくりなんだ。 馬鹿みたいだろ? こんなガキを相手にするわけない ガキで、同性で、相手にするわけがないのに ぽんっと頭の上に、ハボックの手がのった。 「“期待するだけ無駄”なんて思うなよ」 「何言ってんの少尉……」 のっかった手が、エドワードの髪をくしゃりと撫でた。 撫で終った後に、耳元で囁かれた。 ハボックは、一言言って満足したのか すっと去っていってしまったが エドワードの頭の中では、その一言がリピートする。 どれだけ中身が変わっても、その“赤い筒”は変わらない 「ッ……!」 何十回とリピートして、ようやく意味を理解した時には ハボックは去っていて……。 相変わらずの光景。 目の前を軍人がドタバタと走り回っていて あぁ…忙しいんだ、と色々理解する。 どうしようと考えるが、何も思い浮かばなくて とりあえず場所を移動する事にした。 歩けば歩くほど、どうしてもロイに逢いたくなった。 進めば進むほど、ロイが居るはずの部屋に向かっていた。 どうしよう、心臓がうるさい。 扉の前に立って、普段しないような深呼吸をして これまた普段しないはずの、ノックをコンコンッとしてみた。 「どうぞ」 ロイの独特な低い声が聞こえてくる。 扉を開けた、やっぱり心臓はうるさかった。 「ん、鋼のか……どうしたんだね?」 「これ、やる…」 扉の向こうに見つけたロイに向かって エドワードは、赤い筒を投げた。 コロコロと変わる色や模様。 でも変わらないモノが一つあった。 願わくば、それが……。 |