冷塊


「さぁ…渡すんだ……」
墓の前に掘られた大きな穴。
目の前には、ずっとずっとお世話になってきた大佐が居て。
アルフォンスの抱えているモノに手を伸ばしてきた。
「嫌だ…、嫌だ嫌だ!!」
「分かれとは言わない…しかし」
涙を流し、顔がぐちゃぐちゃになっていた。
けれど、アルフォンスは抱えているモノを離さない。
「鋼のは……」
「言うなッ!!」

初めて、お世話になった事を忘れて叫んだ。
だって、言わないでって言ってるのに言うんだ。
分かれと言わないなら、手を伸ばさないで……

「これが、現実だよ…アルフォンス」
「貴方がいなければっ、貴方がいなければ…」
抱えているモノに顔を埋めて、アルフォンスは顔を上げない。
ロイはいつもよりも低く、濁った声で
静かにアルフォンスに声を掛け続けていた。
風が冷たい、北風がとても冷たい。
けれど、何より冷たかったのは……。

アルフォンスの抱えているモノ

「あぁ、私がいなければよかったんだ」
風と共に流れたロイの言葉に、アルフォンスはハッと顔を上げる。


言わないでって言ってるのに、言うから
信じたくない現実を言葉にするから、貴方はそこまで
悲しくないんだと思っていた。
冷たいから、温めなきゃって抱きしめているのを
必死に説得して引き剥がそうとして…。
ただでさえ冷たいのに、あの大きな穴の中に埋めてしまおうなんて
そんな酷い事、しようとしてるから
貴方は、そこまで悲しくないのだと思っていた。

「何…泣いてるんですか……」

「さぁ……何故だろうね、アルフォンス…君の」

抱えているモノが愛しすぎてね…。

「貴方を庇ってこうなったって聞いてます」
「あぁ…」

愛しすぎて……

「あの穴に入れたら、独りぼっちなんです」
「いや……」

どうしようもないぐらい、愛しいから
私は決めたのだよ。

「独りじゃない、私も向かうからね」

「そんなの、ずっと先の話じゃないですか…それまで独りぼっちだ」

愛しすぎるんだ、だから決めたのだよ。
だって、卑怯だろう?
戦いに行く前は、珍しく私の前で敬礼までして
正々堂々と戦い、護れるだけの命を護ると言い切ったのに

その護れるだけの命の中に、私の命が入るなんて
キミは卑怯だよ、鋼の……。

「大丈夫だ、アルフォンス……本当にすぐに向かうよ」

ロイの静かな言葉に、周りの草木がざわめいた。
その音を聞きながら、アルフォンスは力の抜けたように手をぶらんとさせ
抱えていたモノは、ゆっくりとロイの腕の中に渡った。
それは大事に大事に穴へと下ろされ、同時にロイの着けていた
発火布も穴の中へと入れられた。
「大佐…本当に……」
「あぁ、向かうつもりだよ?」
消え去りそうな淡い表情を浮かべながら、ロイは小さく笑った。
今から戻る場所は争いの場である戦場なのに
必要不可欠な発火布を、この場に置いていく。

「鋼のは、来るなと…言うだろうがね」
ロイは小さな声で呟きながら、空を見上げた。

風は冷たかった。
北風がとても冷たかった。

でも、何よりも冷たかったのは……。