嬉しむ事
「で、あんたは何してんだよ…」 司令部の使われてない部屋の隅。 埃と一緒になっていたロイに、エドワードは 溜め息を吐きながら近づいた。 声をかけるが、ロイからの反応はない。 眠っている時独特の呼吸とは、どうやら違う様子。 ロイに近づいて、その場でしゃがみこみ顔を覗き込む。 普段なら、部屋に入った時点で気配に気付くのに 今日は、顔を覗き込むほど近づいても 反応一つすら見せないこの状況に エドワードは、更に大きく溜め息を吐いた。 様子を見る限り、この部屋の本を読んでいたのだろう。 埃まみれの中で、一ヶ所。 錬金術の本が山積みになっている。 本の量からして、徹夜は確実。 司令部の皆に探してきてと言われ、探し回って見つけたが 反応がない事を見ると、どうやら寝ているのではなく 失神……おそらく脳貧血によるモノだ。 大方、一晩同じ体制で読み続けたのだろう 本を取り替えようとして、動き立ちくらみに眩暈だ。 健康な人間なら、そう簡単に失神はしないだろうが 徹夜明けに、同じ体制で血流は最悪状態。 「てめー…軍人として失格だぞ」 つんつんと頬を突付くと、突付かれたロイは少し動き 「失格とは失礼だな……」 ボソリと口を開いた。 動こうとしたが、体がついていかないようで ロイは小さく溜め息を吐いて、そのままの体制で話始める。 「で、何の用だね…鋼の……」 「あんたはココで何してんだよ」 ロイの一言に、皆が心配してたから見に来てやった などと言うのはやめた。 今それを言えば、きっと『すまなかったね』と言いながら 体に無理をさせてでも、この場から動き 皆の前に姿を現そうとするだろう。 部下想いと思うべきか 自分に無頓着と思うべきか それとも、馬鹿だと言うべきか… 「何とは……寝ていただけだが?」 「馬鹿か、睡眠と失神はまったく別のモノだ」 とりあえず、部下想いだなと思っても、無頓着だと思っても 思うだけは、ロイに伝わるわけもないので 馬鹿だと言う事に決めて、ハッキリと言ってやる。 「馬鹿とは……また、ハッキリ言ってくれるね」 エドワードの一言に、ロイは苦笑する。 いつもなら嫌味の一つでも言って、言い合いになるが 間違った事は言われていないので、なんとも言えない状況。 「馬鹿に馬鹿言うのは当たり前だろ」 いつもの嫌味はエドワードにとられてしまい ロイは、その場でエドワードを見つめながら言葉を聞いていた。 嫌味を言いながら、エドワードは本を一冊、一冊片付けていく。 その本のタイトルや中身を見ていくうちに途中で手が止まり 片付けていた本棚とは、別の本棚から一冊手にとりロイの方を向いた。 何事かとエドワードの様子をじっと見ていると エドワードはロイの足元に向かって、本を投げた。 重い音がして地面に落ちた本は、床から舞い上がった埃にまみれ 床に横になっていたロイも、その埃に囲まれた。 ゴホゴホッと咳をし、埃で涙目になりながら エドワードを見ると、本人は下を向いてボソリと一言言葉を放った。 「一生埃にまみれてろッ!」 一言の後、バンッという扉を閉める音がした。 エドワードは、部屋を出て行ったようだ。 ロイが徹夜で調べていたモノは、本のタイトルや種類を見れば 簡単にわかるモノだった。 人体練成、リバウンド、機械鎧……。 分かりすぎるキーワードに、エドワードは一冊叩きつけて その場を出て行ったのだ。 ロイはゆっくり立ち上がり、叩きつけられた一冊の本を見る。 「まいったな……」 言葉ではそう言いつつも、顔は自然と笑みを浮かべていた。 エドワードに叩きつけられた本の内容を見て 嬉しくないなどという事はないだろう。 しかも、小さなメモ付きだ。 『さっさと寝ろ』 クセのある字で書かれたメモは 睡眠について書かれた本に挟まっていた。 |