無駄なんかじゃない
開いては投げた、否開けては投げた。 扉は勝手に開くことはない、蜂蜜色の髪をなびかせた少年は ひたすら足で扉を蹴り開けて、蹴り開けて、開けて……投げた。 「痛いじゃないか、鋼の」 この言葉を何回聞くのだろうか、投げたものは必ずと言っていいほど ロイの頭に当たっていた。 最初に投げたのは、手帳の最後のページ。 次に投げたのは、手帳の最初のページ。 ページを千切って、書いて、丸めて投げる。 その文章を読んでロイがどう思うのかは分からない。 いや、まずその文章を読んでくれているのかが分からない。 それでも、エドワードは1日1回……必ず扉を蹴り開けた。 痛いという言葉は飽きるほど聞いた。 溜息も沢山聞いた。 手帳の白いページも、少なくなってきた……。 「今日も……駄目か」 聞いた溜息が、自分の口からも出てくるようになったのは昨日からだ。 公園の時計のカチカチという音を聞きながら、1日が過ぎる。 エドワードからしてみれば、それは珍しい事だ。 図書館にも行かない、旅もストップしている、資料探しも何もしない。 ただただ、公園の時計の側でポツンと立っている。 立ち疲れれば、その場で座ったりしながらずっと待っている。 「読んで、ないかな……」 ぼそりと呟いた言葉、自分が呟いた言葉なのに何か心にグサリと刺さった。 ロイに対して投げた紙は、一言だけ文字を書いたもの。 読んでいなければ、エドワードが公園で待って居ても何も起きないし 読んでいても、おそらくこの様子だと……。 そっと立ち上がって、ズボンについた土を掃った。 立ち上がった時に、側に居た小鳥が数匹一斉に飛び去った。 だんだんと人が少なくなる時間帯。 夕暮れ時、世間では夕食の時間だ。 エドワードは立ち上がったものの、その場から動こうとはしなかった。 「あとちょっと」 待ってみよう……。 そう呟いては毎日、帰宅が遅くなっている。 ついこの間、アルフォンスに怒られたばかりだというのに あとちょっと、あと少し、己の言葉が動きを縛る。 太陽が沈みかけた時だった……。 もう帰ろうと、数歩前に進んだところで何やら人影が見えた。 「君は……馬鹿なのかね」 覚えのある低い声。 いつも見る軍服に、黒いコートを羽織ったロイがすぐそこに立っていた。 「馬鹿は、あんただろ……遅い!」 不覚にも泣きそうになり、必死に耐えながらの言葉。 ちょっと、あと少し、そう思いながら毎日待っていたものの あの紙の内容から、自分を見つけ出せる人は少ないだろう。 それなのに、すぐ側に彼はやってきたのだ。 「あの内容で、ここに来れる人物が居たらお目にかかりたいものだね」 「実際、大佐が来てるだろ?」 言葉を交わしながら、エドワードは一歩ずつロイに近づく。 想いは自由だ……。 誰が誰を好きで、誰が誰を嫌いかなんて人に決められるものではない。 口にしなければ、相手に伝わる事もなく だからと言って、口にしたとしても伝わるかは分からない。 伝わったとして相手がどう行動するかだって分かりはしない。 言葉にするのが怖い。 たった一言で、全てが変わるのがこの世界だ。 だから紙に書いた、しかもたった一言だけ。 場所も、時刻も、何も書かず……。 たった一言。 「場所も時間も書いてなかった」 「おう!」 「疲れてしまったよ」 「でも来ただろ?」 もうすぐ太陽が沈む。 光がなくなる世界になる。 「……鋼の、帰ろうか」 ロイはそう言いながら手を差し出した。 おそるおそる、その手をとりそっと握り締める。 待ってる それだけで、探して……ここまで来てくれた。 |