黙する
アイツはいつもいつも肝心な事を口にしない。 何を言っても、かわされて……気になっても教えてくれない。 だから、仕返しなんだ。 これは仕返し、俺も肝心な事を口にしない事にしたんだ。 きっとアイツは怒るだろう、とても重要な事を……。 口にしなくても、アイツならいつか気づくだろうけれど。 可愛い仔猫は、ロイのベッドを完全に占領したまま いつの間にか夜が明けていた。 ベッドは大きいものを使用していたので、一緒に寝てしまえばいいと そう思っていたロイは、ベッドにごそごそ入った。 が、しかし入った途端、仔猫が機械鎧の足で ロイを蹴飛ばすという予想外の仕打ちをやってのけた。 結局、家の主はソファーで寝るハメになったというのは 予想できる範囲だったのだろうかが疑問に残る。 「……あの、本当……ごめん」 「君が素直に謝るのは何とも言えないね……さっさと食べなさい」 ただでさえ小さい体を、更に縮こませて謝るエドワードに ロイは小さな溜息を吐いて、朝食を食べるよう勧めた。 目が覚めて、最初に映ったのは見慣れない大きな枕だった。 ふわふわの枕に、さらさらのシーツ、多分シルクとか高級品なのだろうけれど 寝心地は最高だった……が、一体ココはどこだろう。 起き上がって周りを見渡すと、近くの小さなテーブルに見覚えのある手袋が置いてあった。 「まさか……!!」 手に取って見ると、火トカゲの錬成陣。 どうしよう、真っ先に思った事だ。 予想外の展開に、いつもなら回転の速い頭も停止気味。 どこからどう見ても、この手袋は発火布であって。 これをアイツが、そう簡単に置く訳がないのだ……家でない限りは。 という事は、もしかしなくてもこの部屋はロイの家であり、寝室であって。 なのに、肝心の本人がいない。 起き上がって、発火布を元の場所に置き、ベッドから立ち上がった。 立ち上がった所で、いつもと違う感覚に襲われる。 何かとふと自分の体を見ると、服装が違っていた。 「げっ……」 自分には合っていないサイズの大きなパジャマ。 多分おそらく…いや、きっとロイのだろうこのパジャマ。 シンプルな形、色をしたとても着心地の良いモノで いつも以上に熟睡してしまったのは、ベッドとパジャマの所為だと思えた。 だが、着替えているという事はちょっとした問題だ。 「着替えた覚え…ないんだけどな」 寝ていて起きなかったのだから、本人が着替えた覚えがないのも当たり前だろう。 機械鎧の指で、右頬をペシペシと軽く叩いて少しだけ考える。 着替えさせられたのだろうと思い、何とも言えない気分になった。 さっさとこのパジャマを脱いで、いつもの服装に戻りたくて周りを見渡すが いつもの服も、コートも、ズボンすら見つからない。 仕方ないと、そのパジャマの格好のまま寝室を出る為扉を開けた。 そしてそれから、いつもの服をリビングで見つけて手を出そうとして ロイに見つかり、謝罪の場面に向かうのだ。 「あのさ、着替えていい?」 「どうせすぐ軍服の方に着替えるんだ…食べるだけ食べてしまいなさい」 椅子に座ってコーヒーを飲んでいるロイの前には、朝食がなく ロイの向かいには、パンとスクランブルエッグが置いてある。 これはどういう事だとロイの顔を見るが、ロイは何も気にせず ただコーヒーを飲んで、のんびりと椅子に座っている。 きっと、何を聞いても“食べなさい”としか言わないだろう 「いただきます」 エドワードは、椅子に座ってそっと手を合わせた。 「で、笑わない気かね」 「は?」 食べ終わって、2人揃って椅子でゆったりとしていると ふとロイの口から言葉が出てきた。 何を言い出すのかと思えば、昨日の話だ。 ロイの表情はいたって真面目、その顔を見て呆れたのは言うまでもない。 「何、本気にしてんだよ……嘘でも笑ってた方がいいんだろ?」 「あぁ、しかし笑いなさいとは言ってない」 何が言いたいのか、さっぱり分からない。 言ってないというならば、本当に笑わなくていいのかと問いたいが 最初の、笑わない気かと聞いてる時点で 隣で嘘でも笑って欲しいのだろう、まぁ、立場上から考えれば 仕方ないと言えるのだが……。 「アンタ、何が言いたいのさ」 「いや……着替えなさい、そろそろ時間だ。軍服はそこにある」 近くのソファーを指差したロイは、朝食をのせていた皿を片付ける為、背を向けた。 さらりとかわされた話題に、エドワードは少しだけイラつく。 こういう場合、ロイに対し何を言っても答えてはくれないだろう。 あえて言うならば、自分で考えなさいという事だ。 音を立てて歩きながら、ソファーに向かい かかっていた自分の青い軍服を持ってリビングを出た。 「君が笑うと、悪い虫が付きそうだ」 ボソリと呟いたロイの声は、部屋を出たエドワードには届いていなかった。 |