それはやがて
パタンと静かな部屋に響き渡った音。 小さな本を閉じた少年は、頬の筋肉をぴくぴくさせながら ぐいっと立ち上がり、資料室を出た。 脚は早く進み、とある部屋へと辿り着く。 ノックはしない、いつもの事だ……。 バンッと扉を開けると視線の先には 白い書類の山とその先に、青い軍服の青年が立っていた。 「おや?その様子だと、最後まで読まなかったようだね」 青年はニヤニヤ笑みを浮かべながら、入り口に立つ少年を見た。 少年は持っていた本を思いっきり青年に向かって投げた。 ひゅっ…と風を切り、本は青年に向かっていく。 「胸糞悪いもん見せんじゃねーよ」 少年は早歩きしてきた所為で、少し息が乱れていた。 クルクル回転して空中を舞った本は、青年がスッと避けた為 後ろの壁にバンッとぶつかり床に落ちた。 「胸糞悪いとはなんだね、アレはキミの望む情報でもある」 「はぁ?何が望む情報だよ、ただのお伽話だろーが」 人の名前、勝手に使ってんじゃねーよ。 少年、エドワード・エルリックは 青年、ロイ・マスタングに向かって言葉を投げつけた。 ロイは苦笑いしながら、エドワードに向かって それは私が書いたモノではないと話しているが エドワードは、どうやら信じないようだ。 「それでも私が書いたモノではないよ、キミが望む情報だ」 ロイはゆっくりと歩き、部屋の真ん中に居るエドワードの傍に寄る。 「情報って……」 エドワードが望むのは、“賢者の石”の情報だ。 別に賢者の石じゃなくてもいい、弟が元の体に戻れるという情報が 貰えるというならば、喜んで尻尾を振りプライドだって投げ捨てるだろう。 自分達だけが降りかかるモノなら リスクがあっても構わないとすら思っている。 その情報が、一体どこに書かれていたのだと……。 「最後まで読んでないのだろう?」 エドワードは、ロイの方に顔を向け見つめた。 窓がガタガタと風で揺れて、今にも開きそうになっている。 光が差し込み、視線の先が逆光になる。 その所為で、ロイの表情は読み取る事ができない。 「彼等は、宝石になったよ……2人寄り添ってそのまま」 どこか感情の篭った声……。 「涙がサファイアとなり、肌は無色透明なコランダムへ 血がルビーとなり、片方の髪はイエローサファイアとなったそうだ」 宝石の名前を言いながら、ロイはエドワードの腕をそっと掴んだ。 「ッ…なんだよ」 掴まれた事にビクンッと体が動き、エドワードはロイを睨む。 どうやら離してくれないようだ。 「ただ、不思議な事にだね……私と同じ名前の彼の心臓だけは 完全な宝石にならなかったそうだよ、体が宝石になった後も ずっと……」 ロイの言葉が放たれてすぐ、後ろの窓が風で開いた。 ガタンという音と共に、山になっていた書類が部屋を舞う。 数えれる範囲の枚数ではない……。 何百枚という書類という白い紙は、一瞬にして部屋を埋め尽くす。 あまりにも枚数が多いので、すぐには床に落ちず エドワードの視界は、真っ白の中にロイが居るという状態。 掴まれた腕が引っ張られ、何をする気だと思っていると ロイは、温かさが伝わるエドワードの左手をそっと己の左胸に当てた。 「な、に……」 「……赤く輝き続け、それはやがて人々に“天上の石”と呼ばれたそうだ」 その言葉に、エドワードは目を見開いた。 チラリと見えたロイの表情は、いつものからかうような感じではない。 左手から、ロイの心臓の鼓動が伝わる。 風はおさまり、部屋はとても静まり返っていた。 ロイの放った言葉に固まるエドワードには 自分の呼気音と、ロイの心音だけが聞こえていた……。 視界は白。 壁にぶつかり床に落ちたあの本は 風によりページがペラペラと捲れている。 伝わってくる鼓動が、心地良くて そしてとても苦しかった……。 「エドワード・エルリック……宝石は、要るかね?」 |