天使の遊び -3.5-
3話と4話の間の出来事、書きたいシーンを書いただけ。
「宴には参加するのかい?」 神からの言葉に、天使を集めなければならないのかと溜息を吐いた。 「いつやるんだ?」 神の宴とは神の気まぐれで行われるもので、下級や上級関係なく 多くの天使が集まり神を囲い行うものである。 神の存在を肉体として確認をした者は誰一人いないので 基本的には、天使を呼び集めるルシフェルが参加する天使を決めてしまい 宴を行う場所も、内容も全て決めてしまうものであったのだが今回の宴は違っていた。 「そうか、参加するのか……」 クスクスと笑い声が聞こえてくる。 いつ行うのかを聞いただけだというのに、その質問が参加するという回答になってしまったようだ。 しばらくして笑い声が止まり、緩やかなそよ風がルシフェルの頬を撫で 神の言葉がゆっくりと耳に入りだす。 「今回の宴の主役は、私ではないよ」 風が強く流れ出し、神の広間にある大きな扉が勢いよく音を立てて開いた。 神の宴で、神が主役ではないなど今までになかった事だ。 開いた扉に驚いて目を見開き、ルシフェルは振り返って神が居るであろう先を見た。 「いつやるのか。そう問うたね……開始時刻は、既に決めてあったんだ」 神の姿は見えないが、声の高さなどから、とても楽しそうに言葉を放っている事が分かる。 まだ天使を集めてもいないのに、宴の開始時刻を決めていたとは 本当に呆れるほど勝手なものだと、再び溜息が出てしまう。 強く流れていた風が止み、またそよ風が流れ出す。 そして黒く細い何かが風に乗って流れてくるのを視界に捉えた。 「君の髪が、私の手元に届いたら」 「な、にを……」 風に流れて開いた扉へと消えていってしまった為に、視界に入ってきたのは一瞬ではあったが あれは黒い髪の毛だと思われる。 いや、この会話の流れで、神の性格を考えるのであれば確実に いつか己の羽で切り落とした、あの髪の毛。 「いつも任せてばかりだからね、今回は私が参加する天使を決めておいたんだが」 神の楽しそうな声が響き、ルシフェルの思考を停止寸前まで追い込む。 「困ったことに、予定外の元天使が参加していてね」 「元、天使……」 「ここまで言えば分かってくれるね、ルシフェル」 あの時に何故神が動いたのか、今になって分かるなど失笑だ。 イーノックに休養が必要になり、評議会の連中を黙らせなければならなかったあの時。 ルシフェルが動くよりも早く、神が動いていた。 イーノックの目の治療時も、何も言う事なくルシフェルに移すという事をやってくれた。 普段動く事のない神が、二度も動いたのだ。 何もないわけがないのに、その時はイーノックの事で頭が一杯だったのだと改めて思わされた。 今回の宴の主役は神ではない。 ルシフェルの髪が、手元に届いた時から宴が開始されるとの言葉だった。 髪を切ってしまう原因になったのは何だったのか。 それを考えて繋ぎ合わせていけば、自然と宴の主役の存在も出てくる。 そしてそこで更に出てきた元天使の存在。 元などと言ってはいるが、実際は堕天をしてしまった堕天使。 おそらくサマエルの事だろう。 神は、サマエルの存在を困ったとルシフェルに伝えた。 始末をつけて予定通りの宴をしろという事だ。 「君の愛しいヒトの子には、すぐに会えるようにしよう」 しばらく静かになっていた広間に、再び神の声が響く。 ヒトの子という言葉に、考え込んでいたルシフェルの肩が大きく揺れた。 「出来ることならウリエルの所から戻ってくる前に片付けてもらいたいね」 この言葉の意味を考えてしまい、ルシフェルの手が小さく震える。 単純にイーノックに会わせてくれるのであれば喜びもあっただろう。 しかし、イーノックが戻ってくる前に片付けてほしいという願いがある。 神の願いは命令と同じようなものだ。 いつ戻ってくるのか分からぬ状態で、戻る前にサマエルを見つけ出し 更にサマエルの存在を片付けなければならない。 もし、サマエルを片付ける前にイーノックが戻ってきてしまった場合 会えるようにしようという言葉が、なかった事にされてしまう可能性がある。 ルシフェルに力を与えたのは神であり、その力を使えば時間など関係ないはずにもかかわらず 神は戻ってくる前に片付けろと言った。 その言葉の意味を理解する前に、ルシフェルは広間を後にする。 すぐに終わらせてしまえばいいという考えがあった為、広間を出てすぐに指を鳴らした。 しかし、何も起こらない。 サマエルを見つけて始末出来た後、見つけ出す前の時間へと戻ってくれば 時間は一秒も経つ事なく、神の命を遂行する事が出来る。 それなのに、時を操ろうと指を鳴らしても何も起きない。 操る事も、時の移動さえも出来なくなっているのだ。 先程まで聞いていた神の声が、頭に響くような感じがして広間の方へと振り返った。 閉じられた扉は重苦しく感じて、もちろん開く事はない。 ルシフェルは自分の両手を見つめたあと、舌打ちをしてその場を去った。 |