指鳴らし


いつもサポートをしてくれているルシフェルは、指を鳴らす事で時を止めたり移動をしたりしている。
何度も繰り返し見たその光景が、目に焼きついて離れない。
あの音を聞くのは心地いい。それはきっとルシフェルの手から出される音だからなのだが
自分もあの音を出す事は出来るのだろうか、少し考えてやってみたくなった。
胸の前に手をもってきて覚えている指の形をとってみる。
何回も重ねてみるが擦れる音が微かに聞こえてくるだけで、綺麗な音が聞こえてくる事はない。
同じようにやっているつもりなのに何故だろうと首を傾げる。
もう一度やってみようと指を重ねた時、扉の開く音が聞こえてきた。
「イーノック、何をしているんだ?」
扉の閉まる音の後にルシフェルの声が耳に入る。
後ろからそっと抱きつかれ、振り向く事ができなくなった。
胸の位置にあった片手を下ろそうとしたが、外側から包み込むように触れられ止まる。
「鳴らしても何も起こらないぞ」
ルシフェルは笑みを浮かべたままイーノックの中指と親指の先をくっつけ
輪を作り指を鳴らすやり方を口にし始めた。
何をしているんだと聞きながら、分かっていたのではないかと頭の隅で思うものの
口にはできずに、目の前で自分の指をルシフェルに好き勝手されている。
指を鳴らすやり方を説明する度、ルシフェルの吐息が耳にかかり
話を聞くどころではないイーノックは、顔を赤らめ慌てて首を横に振った。
「どうした?」
説明の途中で突然首を振った。そのことで、何かあったのかと問う声が聞こえ
それは更に耳に近づいて、ルシフェルの吐息が耳全体を包む。
「い……や、その、なんでもない」
生暖かい吐息が何度も耳にかかる。その度に聞かされた説明が流れてしまい頭に入らない。
出来るまで教えてくれるつもりなのか、ルシフェルは手を離す事なく温かさが伝わってくる。
耳だけでなく指を鳴らそうとしている片手も全てルシフェルに包まれたような感覚に陥り
イーノックはどうしたらいいのかが分からなくなった。
ただ指を鳴らしてみたいと思っただけ、綺麗な音を鳴らしてみたいそれだけだったはずなのだが
気づくと、指を鳴らす事よりもルシフェルの指ばかり見つめている。
すらっとした指から奏でられるあの音は、どこに居てもどんな状況でもハッキリと聞こえ
まるで側にいるかのように安心を得られるのだ。
どんな時でも側にいる。そう考えた時、言葉には表せない気持ちが胸を支配した。

中指と親指を重ね合わせ強く押し弾く。中指が親指の付け根を強く叩き、パチンと音が鳴った。
初めて自分の指から鳴った音を聞き、嬉しくなり口角が上がる。
「鳴らせた…っ!」
満面の笑みを湛えてルシフェルに伝えようとしたが、密着している為に振り向く事が出来ない。
とにかくお礼を言いたくて、ルシフェルの顔を見て伝えたくてイーノックは顔を上に向けた。
それが伝わったのか、ルシフェルはイーノックを覗き込むように顔を近づけていて
触れるか触れないかのギリギリのところで視線が合う。
「あぁ、よかったな」
ルシフェルは微笑み、腰を掴んでいる片手に少し力が入ったのを感じた。
なかなか見る事の出来ないルシフェルの微笑みを見る事ができ、胸が一杯になる。
ずっと見ていたい。もし許されるなら、このまま時間を止めて欲しい。
視線を合わせたまま動かない二人の間には、呼吸の音だけが静かに響く。
指に触れていた手が離れゆっくりと顎にあてられる。
そんな事をしなくても顔を下げたりはしないのに、その行為がとても愛しくて
どうしようもないくらい愛しくてイーノックは微笑んだ。
触れるだけの口付け。その後ルシフェルは壊れ物に触るよう、そっとイーノックの首筋に顔を埋める。
バランスを崩した二人は、そのまま後ろのベッドへと崩れ落ちた。