クリスマs


絵に描いたような出来事は、そう簡単に起きるものではない。
例えばクリスマスという行事に好きな人とデートできるとか
そのデートが楽しみすぎて、少し寝坊してしまうとか
待ち合わせ場所に向かう途中の信号が全部赤で、急ぎたいのに急げないとか
そう簡単に起きるはずのない事が、見事に重なっている。

人ごみを避けながら走るイーノックは、少し焦っていた。
現時点で約束の時刻を10分オーバー。
確実に寝坊がいけなかった、信号が赤だったのは仕方ないとしてだ。
横断歩道を渡り、イルミネーションが綺麗な道を駆け抜ける。
何故この道を通ったのか、あとで考えればただ知っていた道だったからなのだが
デートの約束をしたという代償は色々大きかったようだ。
走り抜けようとした途中、躓き転んだ子供が視界に入った。

イーノックは通り抜けようとした。
転んでしまっても、起き上がればいい。
擦りむいたところは痛いだろうけれど、それも仕方のない事だ。
しかし、ここで通り抜けれないのがイーノックだといえる。
足をピタリと止めて転んでしまった子供に近づいた。
「大丈夫か?」
いつもなら自分が言われる言葉を、子供にかけ手を差し出した。
子供はイーノックの手をとり、有難うと言いながら立ち上がる。
金髪の青い瞳で、少し自分の子供の頃の姿と似ていた。
「お父さんかお母さんは……」
「えと、あの、大丈夫です!有難う御座います」
両親はどこにいるのかと問いながら、子供の服の砂をはらう。
しかし子供は言葉を濁して微笑み、お礼を言うだけだった。
「いや、お礼は……」
「ったく、地上に書類を落とすのはこれで何度目だ」
お礼はいいと言いかけたところで、子供とは別の声が聞こえてきた。
なんとなくだが、自分の好きな人と似ている声。
「ごめんなさい……」
その声のする方に、子供は視線を向けて謝った。
子供と同じくイーノックも視線を向ける。
そこには、待ち合わせ場所にいるはずの彼が……。
「ルシ…フェル?」
「ん?あぁ、イーノック……あの時の君か」
何故名乗ってもいない名を知っている。
“あの時”とは何の事だろうか……。
イーノックはじっと見つめたまま動くことをしない。
デートをしようと約束した彼なのか、それともそっくりさんなのか
ルシフェルに似た彼は、子供を抱きかかえた。
「あの時遅くなった理由はこれが原因だったのか、仕方ないな」
原因だと思われる子供を抱え見て、小さく笑った彼はイーノックの背をトンッと押した。
バランスを崩し転びそうになり、慌てて止めていた足を進めた。
「早く行くといい、待っているのだろう」
誰とは言わない、だがこの一言でイーノックは目覚めたように思い出し
彼と子供に頭を下げて、また走り始めた。

「昔も今も、まったく苦労させられる」
彼は抱きかかえた子供に視線を移し、小さく溜息を吐いた。
子供は叱られたと思い、身を縮めてぎゅっと目を瞑る。
「まさか、遅刻の理由を今更教えるために落とした訳ではないよな、イーノック」
イーノックと呼ばれた子供は、勢いよく左右に首を振った。
首を振るイーノックを見つめて二度目の溜息。
ルシフェルは指を鳴らして時を止め羽を広げた。
「まぁいい……今は子供だしな、この寒さでは風邪を引く」
小さいイーノックを抱えたまま、ルシフェルは地上から飛び立った。