まったり幸福
咳が出るわけでもない、熱があるわけでもない。 ただ少し喉が痛くてぼーっとする思考、そして何より寒い。 空気の入れ替えと思い窓を開けていたが寒さに耐え切れなくなって窓を閉めた。 タイミングが良いというべきか、悪いというべきか 今日から通っている学園は冬休みという少し長い休みに入る。 公園に行ったり買い物したりと出掛けたい欲はあるけれど イーノックにしては珍しく体がそれについていかない。 防寒着として半纏を羽織り、のそのそと部屋の中心に置いてあるコタツに身を寄せた。 「暖かい……」 コタツの机の部分に頭を乗せて、このまま寝てしまうのではないかという体勢で ぼーっと玄関の方向を見つめている。 どれぐらいの時間が経った時だろうか、玄関の扉の開く音が聞こえてきた。 開いた扉から冷たい風が入り込み、それに耐える為イーノックは もぞもぞと小さく動きながらコタツの布団部分を肩まで被った。 「ん?今日はやけに大人しいな、どうしたんだイーノック」 冷たい風と共にイーノックの家に顔を出したのは、学園の先輩であり 同居人でもあるルシフェルであった。 一緒に住んでいるのだから、顔を出すというよりは帰ってきたと言った方が正しい。 「半纏を着ろって言っても聞かなかった癖に、今日は着てるな」 寒さに耐え切れなくなったのかと笑いながら玄関で靴を脱ぎ コタツで丸まっているイーノックの側に足を進める。 それにしても珍しいものだとルシフェルはイーノックをまじまじと見つめた。 いつも帰宅すれば、素足のぺたぺたする音が聞こえ おかえりと元気に玄関まで走ってくるのに対して 今日は玄関までやってくる事もなければ、おかえりという言葉すらない。 ぼーっと玄関の方を見つめたままコタツで丸まっている。 熱でもあるのかと、反応しないイーノックの額に自分の額をくっつける。 「熱はないな……風邪か?」 互いの額がくっつき、吐息がかかるぐらいの距離になって ようやくイーノックが瞬きを何度もして反応を見せた。 「ルシフェル……」 「ん?」 「ち、ち……近いっ」 熱の確認の為なら、別に手を額にもっていくなり体温計を使うなり やり方はあるだろうに、ルシフェルは自分の額とくっつける事を選んだ。 そして確認できれば離れるのが普通なのだが、それも通じないようで いつまで経ってもルシフェルの額が離れない。 「もっと近づくか?」 反応を見せたイーノックに笑いながら、今度は額ではなく唇に触れるだけの口付けをした。 額のようにずっとくっつけているわけではなかったので あっという間で、気づいたらキスされてましたの状況。 した方は、立ち上がりキッチンの方へ向かおうとしていて された方は、思考が働き出したのか顔を赤らめ何回かコタツの柱を手で叩いていた。 「熱がないなら大丈夫だとは思うが……」 「大丈夫だ、問題ないッ!」 デニム生地のエプロンを腰につけたルシフェルがキッチンから言葉をかけ その言葉にイーノックはすぐに返事をした。 先程のキスが頭を過ぎり、イーノックは顔は赤らめたままコタツの布団に顔を埋める。 キッチンの方から料理をする音が聞こえてくる。 「ルシフェル……私は幸せ者だ」 その音を聞きながら、口にした言葉は料理をしているルシフェルには届かなかった。 しかし口にした事で満足したイーノックは、布団に顔を埋めたまま 眠気に襲われ、静かに眠りの時間に入った。 しばらくして、コタツの上に1人用の鍋がそっと置かれた。 「……コタツで寝ると風邪を引く」 寝ているイーノックを見て呟いたが、どちらにしても風邪はもう引いている。 エプロンを外して床に置き、イーノックの頭を撫でた。 冷める前には起こすと決めて、先に片づけをしようとまたキッチンに向かおうとする。 しかし、ルシフェルのズボンの裾が何かに引っかかり前に進めない 「ん?」 何だろうと裾の部分を見ると、イーノックの手が裾をしっかりと掴んでいた。 起きたのかとイーノックを見てみるが、動きはしないし寝息が聞こえてきている。 どうやら寝たままの状態で、ルシフェルの裾を掴んだようだ。 「放して……は、くれないみたいだな」 放してくれないのならばとルシフェルは、コタツに入ったイーノックの隣に入り込んだ。 「私も幸せ者だよ、イーノック」 そっと耳元で囁き、イーノックの髪を梳き頭を撫で始めた。 |