結び花


幸村の本当の気持ちなんて
本人しか分からないけれど…。
でも、この可能性はゼロだと信じたいのは
やはり……



「旦那……?」

視線の先には、槍を持った幸村が
気配を見せずに立っている。
どうしたのだろうと思った矢先、槍はゆっくりと
佐助の方に向けられた。
いつもの雰囲気と違う。
いつもなら、気を許した相手に対して
気配を見せないなんて事はしないはず。

そう思考を働かせていた時に
槍がゆっくりと佐助に向かってきた。
一瞬の迷いが命取り。

「っ……」

布団は槍の刃により切り裂かれ
佐助は後ろに跳んだが、刃が頬に触れ
赤い雫が頬を流れた。
冗談じゃない、佐助の本音はこの一言だ。
幸村に仕えると決めたのは自分だが
幸村に殺されるなんて決めた覚えはない。
最期の最期なら、幸村の手でとも思えるが
それは今ではない事は確実だ。

「冗談キツイよ…旦那」

幸村の表情を見ると、とてもじゃないが
人を殺そうとしている表情ではない。
小さく歪んで、今にも泣きそうな……。
槍を持つ手は、小さく震えていた。

「さ……すけ……」
「ったく…人使いが荒いっての……」

幸村の消え去りそうな声を聞き、佐助は
大きく溜め息を吐いた。
普通なら狙うのは真田幸村や、武田信玄のはず。
しかし今回は、どう考えても別だ。
こう考えている時点で、幸村が本心で
佐助を攻撃してきたという可能性は
佐助の頭の中では綺麗に省かれていた。

幸村が本当に殺そうと思うならば
多分、大声をあげて…紅蓮の炎を纏い
遠慮なしにぶつかってくるだろう。
こんな、歪んで泣きそうな顔はしない。

と信じたい。

本心で殺したいと思っての行動なら話は別だが
本心でないならば、殺されるべきではない。
幸村が幸村の意思でない限り後悔するのは
殺される自分ではない

嘆き苦しむのは幸村自身だ。


隣で笑い合っていた時の事を信じたい。
これはただのワガママだろうか?
この行動が幸村の本心だという
可能性はゼロなのだと……

そう信じたいのはやはり

「愛…?なんてな」

ボソリと呟いて、佐助はじっと幸村を見据えた。