[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。


傘の行方


馬鹿じゃないのか…。

初めて会う人間は、誰もがそう思うぐらい
旦那は真っ直ぐだ。
この前、雨の中を傘をさして走りながら
茶屋に向かって行った。
この時点で、既に佐助は諦めモード。

帰宅後はもちろんの事ながら、団子の事しか話さなくて

「で、旦那……傘はどうしたの」

話す顔は笑顔なのだが、行く時に持っていた傘がない。
手には団子しかなくて、幸村は苦笑をしていた。

「風に持って行かれたよ」

幸村が苦笑をしてる時は、何とか佐助を
誤魔化して話を終えようとしている時だ。
そんな事は、長い付き合いなのだから佐助は分かりきっている。

「ふーん……そう…」

苦笑している幸村に向かって、小さく言葉を放つと
佐助は、持っていたタオルを幸村に向かって投げた。
しかも1枚ではなく、数十枚。
バザッと音を立て、タオルが幸村の顔にぶつかり
幸村はタオルまみれとなってその場に立っている。

「な、何をするッ佐助ー!」
「馬鹿も休み休み言ってくれよ、まったく…」

雨の日は毎回こうなる。
傘を持って出て、帰ってくる時は傘がなくびしょ濡れ。
最初は心配をしたが、最近はどうも心配が薄れてきてる。
ただ、風邪さえ引かなければ、傘ぐらいイイヨという感覚。

「す、すまぬ……」

佐助の態度に、幸村は風船がしぼんだように静かになり
俯きながらタオルで濡れた体を拭き始める。
いつも怒るはずの佐助が、傘に関してだけは怒らない。
それは…傘がなくなった次の日、幸村は知らぬ事だが
必ず茶屋の近くに住む村人がお礼を言いにくる事が原因である。

『子に傘をありがとう』

その言葉を聞いてからは、怒るに怒れず
かといって、偉いね~なんて弁丸の時のように褒めるわけにもいかず
佐助の言葉の出口はない。

「で、旦那は食べないわけ?」
「ん?食べないとは……」

ふっと佐助を見た幸村の手からタオルが落ちる。
先ほどまで、幸村が手に持っていた団子を
佐助が美味しそうに口にしているのだ。

「さッ…佐助ーー!!!」

「おー、怖い怖いっ」

言葉の出口はないが、行動は罰を与えるように…。
罰と言っても、団子の1つや2つ。
幸村にとっては、大事な事かもしれないが
佐助にとっては、団子1つや2つで、主が反省してくれれば
お安いモノである。