[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
雪消ノ時 -13-
「馬鹿…」 木の上から、ぼそりと聞こえてきた。 弁丸が去った今、庭は静かで風の音ぐらいしか聞こえない。 その中で聞こえてきたのは、女の声。 「かすが……」 木の上は見ず、下を向いたまま佐助は名を呼んだ。 今、かすがの相手をしている余裕が心にない。 仕事だと思っていたこの場所が いつの間にか心地良く感じていた。 その自分自身の事実に、頭がしっかり働かない。 「私が忍びに向いてないと言うなら お前は、人間としてのナニカが欠けてる」 淡々と口にされる言葉に、佐助の肩が大きく揺れた。 かすがは、小さく溜息を吐きながら 一体、自分は何を助言しているのかと心で思い クナイを、佐助のすぐ横に投げた。 投げられたクナイは、佐助の足元のすぐ横の地に刺さった。 佐助は、そのクナイを見た瞬間 バッと振り向き、木の上からコチラを見ているかすがを睨む。 「言って戦場に行くのと、黙って戦場に行くのでは まったく意味は違う……」 睨まれてなお、静かに語られるかすがの言葉に 佐助は、体から力が抜け睨むのを止めた。 「そろそろ契約切れの日が来るんだろう?」 「あぁ……」 風が、かすがと佐助の頬を撫でた。 スズメが一羽、佐助の目の前に降り立ち 地をくちばしで突いて、しばらくして飛び立つ。 かすがと佐助の、それからの会話は何一つなかった。 じゃらりと、耳元で貨幣のような音がした。 むくっと布団から起き上がって、周りを見渡す。 が、誰もいない。 ただ、傍に六文銭が置いてあった。 「何…」 六文銭を持ち上げると、じゃらりと音が鳴る。 泣き疲れた重い体を、必死に立ち上がらせ 六文銭を持って歩き出す。 「弁丸……強くなれ」 どこからか、信玄の声が聞こえてきた。 おそらく、障子の向こう側にいるのだろう。 その声を聞いて、その言葉を聞いて 弁丸は六文銭をぎゅっと握り締め、唇を噛み締めた。 「強くなれば、消える命も少なかろう…」 「……………強く…」 力だけでなく、全てにおいて強くなれ弁丸。 その言葉は、弁丸の心に静かに響いた。 |